記憶還元室を出て廊下を歩いている途中だった。オレは思い切って航太へ言った。
「最近の航太、変だぜ」
隣を歩く彼はごまかすような笑みを浮かべる。
「そうか? 別に何ともないが」
「絶対に変。暗い顔してるし元気もねぇし、全然航太らしくねぇ」
航太はオレから顔をそらすと、ため息をついた。
「すまない。あんまり気にしないでくれ」
「無理だよ。オレ、お前の彼氏だろ?」
前を歩く土屋さんがちらりとこちらを振り返ったが、特に何も言わなかった。
何とも形容のしがたい複雑な表情で、航太はしばらく考え込んでいたが、覚悟が決まったのかはっきりと告げる。
「分かった。今日の仕事が終わったら、すべて話す」
「本当に?」
ついオレが
「ああ、この前のデートも中途半端にしちゃったからな。本当にちゃんと話すよ」
やっと話してくれる気になったらしい。オレは安心して表情をゆるめた。
「分かった。それまで待ってる」
航太の部屋へ行くのは久しぶりだった。
いつもみたいに航太が夕食を作ってくれて、オレはありがたく両手を合わせた。
「いただきます」
今日の献立は焼鮭に冷奴、ほうれん草のおひたしとたくあん、そして炊きたての白米だ。
航太もすぐに向かいの席へ座って「いただきます」と、箸を取る。
焼鮭は塩加減がほどよく、ご飯とよく合う。冷奴もなめらかな絹豆腐だし、ほうれん草のおひたしも美味しい。あいかわらず航太の作る食事は最高だなと思っていたら、ふいに彼が口を開いた。
「楓に言わなきゃいけないことがある」
「え、何だよ」
もぐもぐと
「土屋さんは殺人犯だった」
「は?」
訳が分からず呆然とする。
言葉の意味を理解するのを脳が
航太は重々しく息をつき、まっすぐにオレの目を見つめる。
「去年の大雨の日、北野響は車に轢かれて死亡した。でも実際は、土屋さんが彼女を車道に飛び出させたんだ」
オレは焼鮭へ伸ばした箸を止めた。
「……いや、何言ってんの」
苦笑いをしてみるが、航太は真剣な表情で続ける。
「北野響を轢いた車の運転手が、走り去る人影を目撃しているんだ。さらに土屋さんは当日、酒を飲みに行ったと自分で言っていた。ハッキングして入手したデジタルレシートには、一人分とは思えない注文内容が記載されていた」
「はあ? だからって、でも、警察は」
「ああ、事故として処理した。何故なら土屋さんは局長の姪だ。北野響といたという事実、彼女を殺したという事実は局長に頼んで消去したんだ」
「消した……?」
「
ああ、分かった。あのデートの時、土屋さんが局長の姪だと知って、航太の中ですべてがつながったんだ。航太は日南隆二と犯人探しをしていたわけだ。
「さらに言うなら、蛹ヶ丘魔法学校での一件だ。あの時の土屋さんの、偽物の北野響に対する態度。犯人であると考えれば納得できる」
ああ、なんて馬鹿馬鹿しい。何で、航太がそんなことを……。
そっと箸を置いてオレは航太を見た。
「航太の言うことが本当だとして、それでどうするんだよ。オレたちには何もできることなんてないじゃねぇか」
航太は首を振った。
「いや、できることはある。消された些事記憶の核を取り戻して告発するんだ。そして土屋さんにはきちんと罪を
「取り戻すって、どうやって?」