航太がシャワーを浴びている間、彼のデバイスはいつも食卓の隅の方に置いてある。
音を立てないよう慎重に取り上げ、暗証番号を入力してロックを解除し、起動する。
メッセージアプリを開いて日南隆二を探し、プロフィールへ飛んで電話番号を入手。
次にコネクトビーコンの設定を開いて位置情報がオンになっていることを確認する。
ゴーストアプリを入れるのが一番楽ではあるのだが、航太が気づかないわけがない。
デバイスを閉じて元の位置へそっと戻し、オレは何食わぬ顔で奥の部屋へ移動した。
ベッドへ寝転がり、自分のデバイスを開いていつもやっているゲームを起動させる。
数分ほどで航太が浴室を出た。洗面所の方からドライヤーを使う音が聞こえてくる。
髪を乾かし終えた航太がやって来て、いつものようにオレのすぐそばへ腰を下ろす。
「楓には寂しい思いをさせてしまうな」
「別にいいよ。たった二週間なんだし」
「そうか? 前に土屋さん言ってたぞ」
ゲームをやめてオレは起き上がり、デバイスを机の上に置いてから航太を振り返る。
「毎日寂しそうで退屈そうだったって」
「……オレは子どもじゃねぇっつーの」
航太はくすりとおかしそうに笑うと、両腕を伸ばしてオレの体を優しく抱き寄せた。
「あの時の楓、テンション高かったな」
「何だよ、あの時っていつのことだ?」
「日南さんの世話役から解放された時」
「ああ、久しぶりに三人が集まった時」
「あの時、すごくテンション高かった」
「気のせいだろ、機嫌がよかっただけ」
「それをテンションが高いと言うんだ」
彼の肩にもたれていた顔を上げて、オレはそっと航太の顔から眼鏡を外してやった。
「オレの前では眼鏡かけなくていいよ」
「つい癖でな、かけないと不安になる」
「オレと二人でいる時は、眼鏡禁止な」
「うーん、そんなに僕はイケメンか?」
「ち、違っ……いや、やっぱ違わない」
顔が赤くなるのを自覚しつつ、航太の眼鏡を棚の上へ置いて、あらためて彼を見る。
「顔が好みだから惚れたわけじゃない」
「そうだな、もちろん分かっているよ」
「他にも好きなとこ、いっぱいあるし」
「僕は楓を構成するすべてが好きだな」
「……オレの話、ちゃんと聞けっての」
「ああ、すまなかった。……それで?」
オレは体を離してから膝立ちになり、航太の膝の上へ乗るようにして彼を見下ろす。
「航太、二週間待てなかったらごめん」
彼は呆れたように笑ってからすぐに目を丸くした。オレが航太を押し倒したからだ。
「楓……信じて待っていてくれないか」
「努力する。でも航太のそばにいたい」
オレはまっすぐ目を見つめながら言ってから、困惑する航太の唇をキスでふさいだ。