室内が沈黙し、痩せ型の男が口を開いた。
「日南さん、あなたはどうなんです? 彼のこと、許すんですか?」
「えっ、俺は……うーん」
考えた末にそいつは言う。
「無理だな、許せないし許さない」
「ですよね。ちょっと考えたんですけど、とりあえずこっちの部屋で大人しくしててもらって、話は全部奥でしましょう」
痩せ型の男の提案に、北野響に似た男が言い返す。
「それだと計画が聞かれちゃうじゃないか」
「しょうがないだろ。すでに俺たちの居場所はバレちゃったんだし、今さらじゃないか。それに、こんなことで時間を取られるわけにもいかないよ。早く計画を進めないと」
「そ、それはそうだけど……」
「仲間にしたくない気持ちは分かるけど、消極的にでも受け入れるしかない」
そう言って痩せ型の男は奥の部屋へ向かっていった。
北野響に似た男が息をつく。
「
「ああ、うん」
彼らもまた奥の部屋へ移動し、航太がため息をついた。
「そういうことだ。ここで大人しくしているんだぞ」
「分かった」
遅れて航太も奥の部屋へ入っていき、居場所のないオレは壁際へ寄って座り込んだ。
彼らの話し声が聞こえてくる。オレは膝を抱えてうずくまり、時間が経過するのを見ていた。
ああ、ここは「幕開け人」の拠点だ。そうか、あの北野響に似た男が主犯だったんだな。顔がよく似ていることから、きっと双子だったのだと分かる。虚構世界にいる北野響の作者でもあるのだろう。
あの痩せ型の男は誰だ? 北野響を知っている様子だけれど、友達だったのだろうか。
そんなとりとめのないことをオレが考えているうちに、航太が話を始めた。
「まだ論文にはなってないんですが、大脳皮質に蓄えられた記憶はアカシックレコードとリンクしているのではないか、という仮説を立てている研究者がアメリカにいました」
航太の話を彼らは理解できるのか?
「それというのも、どうやら脳細胞に量子的振る舞いをしていると思われるものが見つかったらしいんです。まだ結論は出ていませんが、もしこれが事実だとすれば、すでに人間は量子システムを
「ということは?」
「脳にある記憶を強く意識することで、アカシックレコードにあるノウム核と量子もつれの関係を作れるかもしれない」
「意識するって、そんな馬鹿な」
苦笑まじりの言葉へ航太は真面目に返す。
「リンクしているということは、アカシックレコードに接触できるということです。そうしたつながりが元々あるから、僕たちの記憶や想像が惑星インフィナムに蓄積されていくんです」
「うーん、たしかにそういうことになるか」
考えてみればそうなのだ。アカシックレコードと人間につながりがなければ、すべての記憶が記録されるわけがない。
「もちろんまだ根拠はないので、もっとくわしく調べてみるつもりです」
「分かった。ありがとう、千葉くん」
と、北野が話を進めた。
「次に僕たちの方だけど、まだ方法が見つけられていないんだ」
方法ということは、すでに計画は決まっているのか。今度は何をするつもりなのだろう?
いや、そもそも彼らの目的は? どうして「幕開け人」なんてやって、物語を再生させているのだろう?