道すがら航太には彼の仮説が正しかったことを話したが、果たして北野たちに理解してもらえるだろうか。
そんな
「人間の脳に量子システムが組み込まれてるのはガチだ。ずっと昔、アヌンナキが遺伝子改変の時に組み込みやがった」
北野が目をぱちくりさせ、横から痩せ型の男が口を出す。航太から聞いたところによると、彼は
「そういや、アヌンナキって本当に存在したんだっけ」
「人類の祖だ。あいつらが地球に来て今の人類を作り出した。けど、量子システムを意識的に動かせるのは限られた人間だけ」
「それがパラサイトドリーマーであり、想像力の豊かな人間は、無意識的にアカシックレコードとつながっているらしい」
航太が補足し、北野は彼を見上げる。
「ということは、もしかして僕はすでに?」
「そうなるな。前に僕が話した通り、強く意識すれば特定の記憶の核と量子もつれを結べるはずだ」
強めの口調で言う航太だが、すぐにオレは口を出す。
「けど、大事なのはそこから先だ。量子テレポーテーションをさせるには観測者がいないとならねぇ」
「観測者?」
北野と東風谷が首をかしげ、航太は説明する。
「量子もつれの関係にある量子AとBがあるとする。誰かが量子Aの状態を観測し、それを量子Bの観測者に伝える。それから観測をすることで、量子Bは量子Aと同じ状態になる、というのが量子テレポーテーションだ」
「ただし、すでに脳に組み込まれているシステムの仕様によっては、古典的な方法に頼らなくてもできる可能性がある。それについても調べてきたから資料を読め、と言いたいところだけど……」
オレはため息をつき、頭をがしがしとかいた。
「口で説明した方が早いよな。手順はこうだ。まず、パラサイトドリーマーが取り戻したい記憶の核と量子もつれの関係を作る。次に記憶の核を誰かが観測する。それをパラサイトドリーマーに伝えることで、そいつの頭ん中に記憶が戻る」
「それじゃあ、観測者は一人でいいということ?」
東風谷の問いにオレはうなずく。
「ああ、記憶の核がどこにあって、どんな状態にあるかが分かればいいんだ」
「でも、目には見えない小さなものなんだろう? それをどうやって観測する?」
北野の疑問に答えたのは航太だ。
「たしかに検索して見つけられるものではない。でも、より精密に検索できないか、方法を探しているところだ」
「っつっても、量子もつれさえできれば、あとはどうにでもなりそうだけどな」
ため息まじりに言い捨てると、北野が鋭い視線を向けてきた。
「ちゃんと説明してくれる?」
「だから、脳にある量子システムの性能によるんだよ。あくまでも今渡した資料は、宇宙科学の最先端にいる人間たちが得たものであって、ぶっちゃけると
「アヌンナキに会う!?」
東風谷が大げさに驚き、オレはため息をつく。
「会えたとしても、量子システムについて教えてもらえるとは限らねぇ。シュメール語はかじってるから会話に問題はないはずだけど、あんまり期待されると困る」
航太が何か言いたげな顔でじっとオレを見てくる。
北野も東風谷と顔を見合わせて迷っている様子だ。
「どっちにしても、結果待ちってことだな」
「そういうことだね。でも、これだけ科学的な情報がそろってくると、すごいな」
北野が手にした資料へ目を落とし、その様子を見た東風谷が言う。
「ああ、今度こそ日南さんも納得してくれるかも」
すると北野は苦い顔をした。
「いや、そもそも宇宙人なんているのかって言われそう」
「オカルトじゃないか、って?」
航太がそう言って小さく笑い、つられて東風谷と北野も笑った。
オレは呆れ返ってうんざりとつぶやいた。
「オカルトじゃなくて、もう現実なんだよ」