駅前のファーストフード店に入り、窓際のカウンター席へ並んで座った。
「
と、東風谷はチーズバーガーにかじりついた。
オレはフライドポテトを食べながら彼を見る。
「同じ高校だったのに?」
「不思議だよねぇ。俺もおもしろいなって思ってるんだけど、響が公演チケットのノルマをさばくために連絡してきたのがきっかけでさ」
「ノルマなんてあんのか」
「小さい劇団だったからね。で、気まぐれに観に行ったら、舞台の上ですごく輝いてたんだ。こんなに綺麗な人だったっけ、っていう」
「惚れたのか?」
「うん。ちょうどその時、渡も来てたから声をかけて、それから二人とよく連絡し合うようになったんだ」
「へぇ。片想い?」
「うーん……響とは何度か二人きりで出かけたけど、両想いだと言い切れる自信はないから、たぶんそう」
いずれにしても、東風谷は北野響と親しい関係だったらしい。
「それで?」
「だから俺は、物語がどうとかっていうのは、あんまりよく分からないんだ」
意外だった。「幕開け人」でありながら物語を愛していないなんて。
オレは横目に彼を見つつ、様子をうかがうように言う。
「北野が幼馴染の物語を取り返したいって聞いたけど」
「俺はその幼馴染と何回かしか会ってないから、自殺したって聞いた時もそれほどショックを受けなかった」
「ああ、そういう距離感なのか」
「そうなんだよ」
本当に東風谷は北野響のためだけに、北野渡に協力しているわけだ。
「じゃあ、アカシックレコードも?」
「ぶっちゃけどうでもいい」
「だよな。そっちは幼馴染の復讐なんだもんな」
「俺には復讐をする理由も義理もないからね」
そう言って東風谷は苦笑し、ストローに口をつけた。
オレは黙々とポテトを食べていたが、ふと東風谷がため息をつく。
「けどさぁ、ちょっと心配なんだよねぇ」
「何が?」
「渡だよ。無事に目的が達成できたら、その先はどうやって生きてくつもりなんだろう」
窓ガラスに映る東風谷は遠い目をしており、オレも無言で遠くを見つめた。人工的な夜に都市の明かりがまぶしい。
「その幼馴染、
東風谷の言いたいことはなんとなく分かった。
「お前が支えてやれよ」
「そりゃあ、できる限りのことはするつもりだよ。けどさ、渡の人生は渡のものだから。もしあいつがもういいやってなっちゃっても、俺に引き止める権利はないんだ」
胸がぎゅっと痛くなった。同時に、アカシックレコードを破裂させようという北野の気持ちが分かったような気がした。
「しんみりしちゃったな。君たちの話を聞かせてよ」
「えっ、オレと航太の?」
ドキッとするオレだが、東風谷はにやにやしながら言う。
「二人の出逢いや交際するきっかけとか」
「そう言われても……『幕引き人』になる時、一緒だったんだよ。同期ってやつ」
「ああ、そうなんだ」
「研修が終わった後、配属先でも一緒になって。その時にはだいぶ話すようになってたけど」
ふとその頃を思い出して顔が熱くなる。
「どうした?」
「いや、その……めちゃくちゃ押しが強かったんだ」
東風谷は何故か嬉しそうに笑った。
「千葉くんって、そういうタイプなんだ?」
「毎日アピールしてくるから、職場のみんなにはバレバレだった」
「で、田村は?」
「オレは……す、好きだったから、恥ずかしいけど受け入れてたっていうか」
「わはは。おもしれー二人だ」
「おもしろくねぇよ!」
言い返すオレだが、東風谷は笑い続ける。もしかしたら、こいつとは友達になれるんじゃないかと思った。