航太がクローヴ博士に託されたプロトタイプは、実によくできていた。ただし実用できる段階にはなく、オレが独自に作っていたシステムで流用できる部分をコピペした。
「それにしても、楓がこんなことまでできるとは……」
キーボードを叩きながら航太がこぼし、オレも自分のノートパソコンを使いながら返す。
「終幕管理局に入った時、どんなシステムになってるのか気になって調べたからな」
「調べたって何を?」
「パソコンだよ。量子パソコンなのは分かってたけど、実際にどんなプログラムが組まれてるのか、アカシックレコードとどうやってつながってるのかっていうのを、一通り調べたんだ」
航太がじっとオレを見つめて、何か言いたそうな顔をする。
「これ、フルスキャン発生してね? ハッシュジョインに変更していいか?」
「あ、ああ、そうだな」
我に返ったように航太は画面へ視線を戻し、何故か気まずい沈黙が流れる。
北野と東風谷は奥の部屋で話をしており、オレたちの
かと思えば、ふいに航太がつぶやいた。
「クエリキャッシュのヒット率を上げるために、
「そこまでするか?」
「これを終幕管理局に提供して、使用してもらえたらと考えているんだ」
「大幅なアップデートじゃん。博士には?」
「もちろん報告するし、博士の意向に沿って全世界へ無償提供するつもりだ」
「じゃあ、アリだな。Redisを導入してホットデータをキャッシュするのがいいか。TTLを適切に設定すれば、データの整合性もそこそこ保てるだろ」
「そうだな、Redisのキー設計をどうするか考えないと。検索条件のバリエーションが多いから、シンプルなキー構造だと取りこぼしが出るかもしれない」
「そこはハッシュ化とタグ付けで対応するのがいいんじゃね? あと、どうせならElasticsearchも組み込もうぜ」
「ああ、全文検索な。あればありがたいわけだが、データの同期をどうするかが問題だな」
「Meglomoで非同期でやるのが現実的だろ。データベースの更新があったらMeglomoのトピックに投げて、Elasticsearch側で取り込めばいい」
また航太がじっとオレを見つめてくる。時々こうした視線を向けられるが、いったい何なのだろうか。
そしてまた沈黙。耐えきれずにオレはたずねた。
「なぁ、航太。時々お前、何か言いたそうな顔してオレのこと見てくるけど、何なんだよ? 言いたいことがあるなら言えよ」
航太の手が止まった。視線を泳がせてからオレを見る。
「その、何と言うか……楓の知的な一面を見ると、キラキラしてまぶしいというか」
思わずオレも手を止めた。
「少しは嫉妬も覚えるんだが、楓のすごさに圧倒されるというか……ドキドキ、というよりはゾクゾクする」
顔が熱くなり、キーボードに置いた手をぎゅっと握る。
「ば、馬鹿言ってんなよ! それより手ぇ動かせ!」
言い返すオレだが、いつもより張りのない声になってしまった。
「ああ、すまない」
航太が再びキーボードを打ち始める。オレはまだドキドキしていたが、かまわずに作業を再開した。