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第91話 何か言いたそうな顔

 航太がクローヴ博士に託されたプロトタイプは、実によくできていた。ただし実用できる段階にはなく、オレが独自に作っていたシステムで流用できる部分をコピペした。

「それにしても、楓がこんなことまでできるとは……」

 キーボードを叩きながら航太がこぼし、オレも自分のノートパソコンを使いながら返す。

「終幕管理局に入った時、どんなシステムになってるのか気になって調べたからな」

「調べたって何を?」

「パソコンだよ。量子パソコンなのは分かってたけど、実際にどんなプログラムが組まれてるのか、アカシックレコードとどうやってつながってるのかっていうのを、一通り調べたんだ」

 航太がじっとオレを見つめて、何か言いたそうな顔をする。

「これ、フルスキャン発生してね? ハッシュジョインに変更していいか?」

「あ、ああ、そうだな」

 我に返ったように航太は画面へ視線を戻し、何故か気まずい沈黙が流れる。

 北野と東風谷は奥の部屋で話をしており、オレたちの打鍵だけん音ばかりが室内を支配する。

 かと思えば、ふいに航太がつぶやいた。

「クエリキャッシュのヒット率を上げるために、頻繁ひんぱんに検索されるデータをメモリ上に載せておきたいな」

「そこまでするか?」

「これを終幕管理局に提供して、使用してもらえたらと考えているんだ」

「大幅なアップデートじゃん。博士には?」

「もちろん報告するし、博士の意向に沿って全世界へ無償提供するつもりだ」

「じゃあ、アリだな。Redisを導入してホットデータをキャッシュするのがいいか。TTLを適切に設定すれば、データの整合性もそこそこ保てるだろ」

「そうだな、Redisのキー設計をどうするか考えないと。検索条件のバリエーションが多いから、シンプルなキー構造だと取りこぼしが出るかもしれない」

「そこはハッシュ化とタグ付けで対応するのがいいんじゃね? あと、どうせならElasticsearchも組み込もうぜ」

「ああ、全文検索な。あればありがたいわけだが、データの同期をどうするかが問題だな」

「Meglomoで非同期でやるのが現実的だろ。データベースの更新があったらMeglomoのトピックに投げて、Elasticsearch側で取り込めばいい」

 また航太がじっとオレを見つめてくる。時々こうした視線を向けられるが、いったい何なのだろうか。

 そしてまた沈黙。耐えきれずにオレはたずねた。

「なぁ、航太。時々お前、何か言いたそうな顔してオレのこと見てくるけど、何なんだよ? 言いたいことがあるなら言えよ」

 航太の手が止まった。視線を泳がせてからオレを見る。

「その、何と言うか……楓の知的な一面を見ると、キラキラしてまぶしいというか」

 思わずオレも手を止めた。

「少しは嫉妬も覚えるんだが、楓のすごさに圧倒されるというか……ドキドキ、というよりはゾクゾクする」

 顔が熱くなり、キーボードに置いた手をぎゅっと握る。

「ば、馬鹿言ってんなよ! それより手ぇ動かせ!」

 言い返すオレだが、いつもより張りのない声になってしまった。

「ああ、すまない」

 航太が再びキーボードを打ち始める。オレはまだドキドキしていたが、かまわずに作業を再開した。

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