東風谷が差し入れしてくれたエナジードリンクを飲んで徹夜し、次の日もほとんどぶっ続けでキーボードを叩き続けた。
航太と入れ替わりで仮眠を挟み、作業を続けて三日目の朝。
「できた……」
ついに精密検索システムが完成した。
「よし、あとはテスト環境で見てみよう。これで問題がなければ……」
ふわぁ、とオレの口からあくびが漏れる。
航太はオレを見ると優しく笑った。
「休んでいいぞ。あとは僕がやる」
「でも、まだデバッグが残ってるだろ?」
そう言いながらも、オレは眠気に襲われていた。四時間ほど仮眠したはずだが、前の晩の徹夜が今になって響いてきたらしい。
「いや、それは東風谷に頼むからいいよ。だから楓は寝てて大丈夫だ」
と、航太が言うため、仕方なくオレは彼に従うことにした。
「うーん……じゃあ、そうする」
「ああ、おやすみ」
誰もいない奥の部屋へ行って、ソファへ寝転がる。
北野と東風谷は朝食を買いに出かけていたため、部屋は静かだった。
まぶたを閉じるとすぐに頭が真っ白になり、すんなりと眠りへ落ちた。
昼過ぎに目を覚ますと、まだ航太は起きていた。
「おはよう、楓。ぐっすりだったな」
にこりと笑う彼へ、オレは目をこすりながら返す。
「航太こそ、眠くないのか?」
「ああ、ちゃんと寝たよ」
「え?」
「東風谷にデバッグを頼んでから、僕も眠ったんだ」
道理で爽やかな顔をしているわけだ。まだ少し疲れが残るオレと違い、航太はいつも通りのイケメンっぷりである。
「マジかよ」
と、小声でつぶやきつつ、オレは立ち上がって洗面所へ向かった。
小便をしてから水で顔を洗い、北野たちが買ってきた菓子パンでひとまず腹を満たした。
航太はすでに修正作業を開始しており、オレは何もせずに見守るばかりだ。
すると東風谷が話しかけてきた。
「こっちの準備はもうできたよ」
「ああ、何だっけ……物語を考える物語?」
「そう。渡と日南さんが考えた、選択形式で物語を作る物語さ」
オレたちが調べ回っている間、彼らはずっとその作業をしていたのだが、ついに完成したらしい。
誇らしげに笑う東風谷へ、オレは小さく息をつく。
「ってことは、こっちが完成すれば、あとは実行するだけか」
考えてみると少し怖いような気がしてくる。アカシックレコードが破裂したら、世界がどうなってしまうか分からないのだ。
「そういうことだね」
と、東風谷は奥の部屋へ戻って行き、オレは頬杖をついた。何だかあっという間だったなと思った。