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第92話 あとは実行するだけ

 東風谷が差し入れしてくれたエナジードリンクを飲んで徹夜し、次の日もほとんどぶっ続けでキーボードを叩き続けた。

 航太と入れ替わりで仮眠を挟み、作業を続けて三日目の朝。

「できた……」

 ついに精密検索システムが完成した。

「よし、あとはテスト環境で見てみよう。これで問題がなければ……」

 ふわぁ、とオレの口からあくびが漏れる。

 航太はオレを見ると優しく笑った。

「休んでいいぞ。あとは僕がやる」

「でも、まだデバッグが残ってるだろ?」

 そう言いながらも、オレは眠気に襲われていた。四時間ほど仮眠したはずだが、前の晩の徹夜が今になって響いてきたらしい。

「いや、それは東風谷に頼むからいいよ。だから楓は寝てて大丈夫だ」

 と、航太が言うため、仕方なくオレは彼に従うことにした。

「うーん……じゃあ、そうする」

「ああ、おやすみ」

 誰もいない奥の部屋へ行って、ソファへ寝転がる。

 北野と東風谷は朝食を買いに出かけていたため、部屋は静かだった。

 まぶたを閉じるとすぐに頭が真っ白になり、すんなりと眠りへ落ちた。


 昼過ぎに目を覚ますと、まだ航太は起きていた。

「おはよう、楓。ぐっすりだったな」

 にこりと笑う彼へ、オレは目をこすりながら返す。

「航太こそ、眠くないのか?」

「ああ、ちゃんと寝たよ」

「え?」

「東風谷にデバッグを頼んでから、僕も眠ったんだ」

 道理で爽やかな顔をしているわけだ。まだ少し疲れが残るオレと違い、航太はいつも通りのイケメンっぷりである。

「マジかよ」

 と、小声でつぶやきつつ、オレは立ち上がって洗面所へ向かった。

 小便をしてから水で顔を洗い、北野たちが買ってきた菓子パンでひとまず腹を満たした。

 航太はすでに修正作業を開始しており、オレは何もせずに見守るばかりだ。

 すると東風谷が話しかけてきた。

「こっちの準備はもうできたよ」

「ああ、何だっけ……物語を考える物語?」

「そう。渡と日南さんが考えた、選択形式で物語を作る物語さ」

 オレたちが調べ回っている間、彼らはずっとその作業をしていたのだが、ついに完成したらしい。

 誇らしげに笑う東風谷へ、オレは小さく息をつく。

「ってことは、こっちが完成すれば、あとは実行するだけか」

 考えてみると少し怖いような気がしてくる。アカシックレコードが破裂したら、世界がどうなってしまうか分からないのだ。

「そういうことだね」

 と、東風谷は奥の部屋へ戻って行き、オレは頬杖をついた。何だかあっという間だったなと思った。

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