オレはまだ日南に謝罪をしていない。
はっきり言って、する気もなかった。どうせ許されないのは知っているんだ。謝罪したって何も状況は変わらないに決まってる。
でも、それを北野は許してくれなかった。
「明日、世界がどうなってしまうかは分からない。けど、だからこそわだかまりは少ない方がいいと思うんだ。田村くん、君も大人なんだからできるよね?」
拳をぎゅっと握って、オレはおそるおそる日南の方を向いた。ほんの一瞬目が合って、すぐにそらす。
日南はオレの言葉を待っていた。航太もオレの様子を見ている。
ここできちんと謝罪をしなければいけない状況だった。そうは分かっていても、脳が拒否をする。どうにかこうにか心で脳を押さえつけて、オレは口を開いた。
でもすぐに言葉は出てこなくて、視線を泳がせてしまう。それからようやく、絞り出すようにしてオレは言った。
「ごめん、なさい……」
日南が戸惑うのが空気で分かったが、彼は笑った。
「ごめんって言われても、受け入れられないよ」
知っていた。知っていたのに、いざ言われると傷ついて呆然とする。
日南は間髪を入れずに続けた。
「たしかに田村くんはすごい人だし、協力してくれたのはありがたかった。けど、それは千葉くんと別れたくなかったからだろ?」
見透かされていた。やっぱりこいつは十一歳も年上なのだと、思い知らされたような気がした。
「俺のこと、本当はまだ嫌いなんだろうなっていうの、なんとなく感じるし。だから俺も、君とは友達になれないと思ってる」
そこまで言ってから日南は息をつき、北野へ言った。
「北野くん、俺のためにありがとう。明日に備えてしっかり休むんだぞ」
「あ、はい。日南さんも、どうか気をつけて」
「ありがとう。お疲れさま」
言われたことをいまだ飲み込めずにいるオレを置き去りに、日南がすぐ横を通って玄関へと向かっていく。
もやもやとした気持ちと苛立ちの間で、オレは今になって彼を傷つけていたことを自覚した。
扉を開けて出ていく彼を慌てて追いかけるが、あと一歩のところで扉が閉まる。直後に聞こえてきたのは彼の独り言だった。
「あーあ。仲良くなれると思ってたのになぁ」
気づくと、全身の力が抜けてその場に座り込んでいた。ああ、オレは裏切ったのだ。航太だけでなく、日南まで。
純粋な彼の純粋な思いを、オレは最悪の形で裏切って、ひどく傷つけていた。
今さら罪の意識がのしかかり、我慢できずに泣き声を上げた。
航太がそばへ来て、何も言わずにオレの頭や背中を撫でてくれたが、辛さが増すだけだった。
もうオレと日南が友人になれる未来はないだろう。愚かなオレのエゴで、あるかもしれなかった未来をつぶした。
いつか航太も「仲良くなってくれたらいい」と言ってくれていたのに。
謝罪はもう聞き入れられない。オレが許されることもない。時間が解決することだってない。
でも……もしもパラレルワールドがあるのなら、どうかそこにいるオレは過ちを犯すことなく、彼と友人になっていてほしい。