オレは急激に恥ずかしくなり、我慢できずにうつむいてしまった。
「主任も言ってたけど、君たちにはこれからも協力してもらいたいと思ってる。時々でいいから、田村くんも遊びにおいで」
類沢さんのまるで兄みたいな言い方に、何故かオレはますます恥ずかしくなってしまった。心がきゅっとなって、じわじわと砂糖が溶けるみたいな感覚がして、やっとそれが嬉しいということなのだと気がついた。
それでもどう言葉を返したらいいか分からず、黙り込む。そんなオレを気遣ってか、航太が言った。
「すみません、こいつ恥ずかしがりで」
「あはは、それなら無理しなくていいよ。でも、俺はいつでも歓迎するからな」
「……はい」
オレは小さな声でうなずき返し、航太が話題を変えた。
「ところで、昼間の件はどうなりました? サーバールームへの入室許可、得られたでしょうか?」
「ああ、千葉くんなら大丈夫だってさ。今日は責任者が八時までいるっていうから、それまでに来てくれればいつでも入れてくれるそうだよ」
「ありがとうございます」
やっぱり航太はすごい。認められていて、信頼されている。
「にしても、精密検索システムを作ったのも君たち二人なんだろう?」
「ええ、そうです。ほとんど楓が作ったと言っても過言じゃないですが」
「そりゃすごい。開発研究部のメンツ丸つぶれだよ」
はっとして顔を上げたが、類沢さんはあっけらかんと笑った。
「まあ、俺は破砕機周りの担当だから関係ないけどな」
「おもしろい人だった」
開発研究部を後にし、オレたちはサーバールームへ向かっていた。
オレがぽつりと感想を漏らすと、航太が嬉しそうにする。
「そうだろう? 類沢さんは気さくで、当時学生だった僕に優しくしてくれた人なんだ。緊張を解くために洒落を言ってくれて、それ以来仲良くしてもらってる」
「そうなのか。思ってたのと違ったし、全然普通の人だったな」
「うん」
うなずいてから航太は前を見る。
「研究者だって普通の人だ。職業としては数が少ないし、そういう意味では特別に見られてしまうかもしれない。でも、結局は人なんだよ」
「……」
「楓は溶け込みたいって言ったけど、それなら溶け込みやすい環境に自分を置けばいい。無理して大多数に
ああ、そっか。オレ、無理して合わせようとしてたんだ。仲間に入れてほしいのに叶わなかったから、地球人を馬鹿にして勝手に距離を取ってた。
そうすれば傷つかずに済むから、自分こそが正しいと思い込めるから。
「大事なのは楓が居心地のいい場所にいることだ。僕がいなくても寂しい思いをせずにいられる場所。寂しい思いを紛らわせてくれる人のいる場所」
「……うん」
航太はオレに居場所を作ってくれようとしていた。きっと昨夜、オレが子どもみたいに泣きじゃくったからだ。
「どうだ、類沢さんとは仲良くなれそうか?」
にこりと微笑みながら航太がたずね、オレは少々口ごもりながら答えた。
「それは分かんねぇけど、今度また、会いに行ってやってもいい」
「よし、そうしよう」
満足気に航太が返し、オレは口を閉じた。実行まであと十五分。