航太の部屋に帰ってから警察ヘ電話をした。最初は何故か通じなかったが、三回目にしてようやくつながり、情報を提供することができた。
その後、近くの弁当屋で買ってきた弁当を食べつつ、北野たちとビデオ通話で顔を合わせた。画面は三つ、それぞれに二人ずつ映っている。
「ありがとうございました、一坂さん。初めてお会いするのがこんな形で申し訳ありません」
北野が丁寧に言って軽く頭を下げる。
一方、一坂さんは困ったように顔の前で両手を振る。
「いえ、私はただ絵を描いただけなので、そんな……」
「それがよかったんですよ。無事にアカシックレコードも破裂したようですし、本当に感謝しています」
言いたいことは分かるのだが、なんとなく様子が変だ。
すると東風谷がツッコんだ。
「無事に破裂したって変じゃないか?」
「ん? だって、破裂させるのが目的だったわけで」
「いや、そうなんだけど、何か論理が通ってないような」
航太も同じ気持ちだったらしく、オレと目を合わせて軽く首をひねる。
「あれ、もしかしてそっち、お酒飲んでる?」
ふいに日南が気がつき、北野がにこにこと笑いながら手にした缶を見せた。
「ええ、飲んでます。かんぱーい」
「酔ってたのか」
航太が苦笑しながら言い、日南と一坂さんも少し笑う。
「すみません、俺たちだけ飲んじゃって。みんなとはあらためてお祝いしたいなって思ってます。もちろん一坂さんもですよ」
と、東風谷。彼も飲酒しているようだが、北野に比べると全然マシだ。
「明日はどうですか? 予定が合いそうなら集まりましょう」
「そうだね、明日の夜なら」
日南が言いかけたところで、オレたち四人のデバイスが一斉にメッセージを受信した。
真っ先に確認したオレは言う。
「仕事、なくなっちまった」
はっきりとは書かれていないが、アカシックレコードが破裂した影響だろう。状況が正確に把握できるまで、終幕管理局は業務を停止するとあった。
「それじゃあ、お昼から集まりましょう。派手に飲んで騒いで、それで」
明るく言った北野だったが、急に黙り込んだかと思うと泣き始めた。
「姉さん、智乃……僕、頑張ったよ。二人の仇、ちゃんと討てたよ……」
「おっと、これは見苦しい。渡が一番プレッシャーだったからねぇ。すみません、一旦これでお開きってことで。あとでまた連絡します」
と、東風谷が苦笑いを見せてから退出した。
「それじゃあ、おそらくまた明日」
と、航太も日南たちへ言ってから通話を終了させる。
「まったく、何であいつらだけ酒飲んでるんだよ」
呆れながらオレが言うと、航太は笑った。
「いいじゃないか。元々は彼らだけで活動してたんだ、二人だけで祝いたかったんだろう」
「それもそうか。けど、虚構の中にいる『幕開け人』はどうなるんだろうな?」
現実世界で目的を達成したのだから、虚構世界で活動する必要はもうない。
「たしかに、どうなってしまうんだろう。アカシックレコードがどういう状況にあるか分からないから、何とも言えないが」
「検索できねぇんだろ?」
「ああ、エラーになってしまって何も見えない」
「破裂はしたけど、世界は何も変わってない。どういうことなんだろうな」
最後の一口を口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。
「虚構世界管理部が情報を集めているから、僕たちは待つしかないな」
航太はどこか不安げにそう返した。