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第100話 打ち上げパーティー

 翌朝、「物語を考える物語」がニュースになっていた。何者かが一斉送信したと見られ、警察が捜査を進めているという。

 一方、SNSでは自分の作った物語を投稿するのが流行り、後の物語をそれとなく投稿する人たちまで出てきた。さらには一坂さんのイラストを元にした二次創作まで始まり、人々がよほど想像に飢えていたことが明らかとなった。

 また、アカシックレコードが破裂したという情報も流れ、「創造禁止法」の撤廃を呼びかける者もいた。


 東風谷たちと相談した結果、キッチン付きのレンタルルームを借りることになった。夕食を兼ねた打ち上げパーティーだ。

 航太はおにぎりを作ってきただけでなく、その場でしいたけのバター焼きを作った。

 オレは自分が食べたいから漬物を数種類買って盛り合わせにした。

 日南は山盛りの唐揚げを、一坂は手作りのサンドイッチを、東風谷はビールと梅酒、北野はサイダーと烏龍茶を持ってきた。

 それらを大きなテーブルに並べ、北野が音頭を取る。

「それでは、あらためて計画の成功を祝し、乾杯!」

「乾杯!」

 それぞれが手にしたグラスを軽く掲げてから飲み物に口をつける。オレは航太から飲酒を禁止されているため、烏龍茶だ。

「どうぞ、みなさん食べてください」

 と、一坂さんがひかえめに言い、何人かが彼女のサンドイッチへ手を伸ばす。

 オレは何から手を付けたらいいか分からず、とりあえず航太のおにぎりを取った。

 思えば、こうしたパーティーに参加するなんて初めての経験だ。大人数で集まるということがそもそも初めてだし、大人数で飲食するのも初めてだ。

 北野は一坂さんに話しかけており、すぐ横で日南も二人の会話を聞いている。

 航太は東風谷と話していて、オレだけが一人だった。別に孤独を感じるわけじゃないけど、なんとなく居辛くはある。

 オレがツナマヨのおにぎりを食べ終えたところで、東風谷が話しかけてきた。

「陰気な顔してるなぁ、田村。君だってもう仲間なんだよ?」

 そう言ってもらえるのは嬉しいが、素直に返せるオレじゃない。

「気、遣わなくていいよ」

「ああもう、ノリが悪いねぇ。明るくいこうよ、明るく」

 オレはふいとそっぽを向いた。彼を無視して自分の皿にサンドイッチと唐揚げを一つずつ取り、隣の部屋にあるソファへと移動する。

 楽しげな空気から離れてほっとしつつ、オレは一人でもそもそとサンドイッチを食べる。

 ただ食べているだけでは退屈なので、皿とグラスを脇へ置いてデバイスを起動させた。SNSを開いて世の中の流れを見て時間をつぶす。

 投稿された物語は朝見た時よりも増えているようだが、現在の状況を怪しむ人たちもぽつぽつと現れ始めていた。国が何の発表もしないことに不満を漏らす人もいる。

 そんな中、オレはとある投稿を見て驚いた。

「特別価格! 先着十名限定の超破格オファー! あなたも幕開け人になって副業で稼ぎませんか?」

 どこからどう見ても情報商材詐欺である。しかも「幕開け人」になるだと?

 オレはちらりと航太たちの方を見た。この中の誰かがこの投稿をした可能性は、ないな。そんなずるいやつらじゃない。

 じゃあ、この投稿者は何者だ? どうして「幕開け人」を使って詐欺を?

 オレは少し悩んだ末にスクリーンショットを撮り、航太と東風谷にだけ送信した。

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