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第101話 騙された振り・前編

 打ち上げパーティーの後、オレは航太と東風谷の三人で喫茶店に入った。

 四人がけのソファ席に航太と座り、向かいに東風谷が腰かけた。

「どう見ても詐欺だなぁ、そもそも『幕開け人』でどうやって稼ぐんだか」

 アイスコーヒーを飲みながら東風谷が言い、航太はデバイスで検索をかける。

「典型的な情報商材詐欺だろうな。SNSのプロフィールに書いてある学歴も、本当かどうか疑わしい」

「だよなぁ」

 と、オレはレモネードをごくごくと飲む。

「でもそうすると疑問が残る。いったいどこで『幕開け人』のことを知ったのか」

 東風谷の疑問に航太が顔を上げた。

「去年の事故に関する報道で一般に知れ渡った印象があるが」

「けどよ、具体的な中身までは知らないはずだろ? それでどうやって教材作るんだよ?」

 オレが横目に視線をやれば、航太は顎に手を当てて考え込む。

「そうだよな。しかも当時は終幕管理局にあだなす者、という報道のされ方だった。現時点で、SNSでは『創造禁止法』の撤廃が盛り上がっているが、犯罪を推奨すいしょうするような副業というのはおかしい」

「うん、俺も同感。教材の中身なんてテキトーでいいし、売りつけることがまず重要なんだ。それなのに、犯罪者になろうと誘ってるのは変だよ」

 なるほど、詐欺ってそういうものなのか。

「何をどうして金を稼ぐのか、まったく意味が分からないのもあるしね」

 と、東風谷は頬杖をつく。

「で、どうするんだ?」

 オレが二人へたずねると、航太はデバイスを閉じた。

「可能なら警察に届けるべきだな。被害者が出るかもしれない」

 と、デバイスを置いてアイスコーヒーに口をつける。

「俺もそうしたいところだけど、だったらその被害者になった方が早いかも。危うく金を詐取さしゅされるところでした、っていうていで警察に相談するんだ」

 東風谷が意外と頭のいいことに感心しつつ、オレは返した。

「なるほど、その方が警察も動いてくれそうだな」

「警察へ行くなら僕は不向きだな。すでに去年のことで連絡を入れているから、逆に怪しまれる可能性がある」

 と、航太が少し苦笑いをする。

「じゃあ、俺がやるよ。騙された振りをして連絡を取り合えばいいんだから、簡単なことさね。捨て垢あるし」

 そう言って東風谷がどこか楽しげにデバイスを操作し、オレは問う。

「ちなみに、このことをあいつらには?」

「言わないよ。渡を悲しませたくないし、日南さんたちにも黙って、俺たちだけで解決しよう」

「そっか」

 オレは少し安心した。その方がいいとオレも思っていたからだ。特に北野は複雑な気分になるに違いない。

「はい、DM完了。あとは返事が来るのを待つだけだけど、君たち時間は大丈夫?」

 東風谷がデバイスの画面から視線を上げ、オレは答えた。

「しばらく休みだから大丈夫だ」

「ああ、僕も特に予定はない」

 オレたちの返答を聞いて東風谷が苦笑する。

「そうだったね。俺もせいぜいあの部屋を出て、家族のところに帰るしかないしなぁ」

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