ふと気になって、オレは東風谷へたずねた。
「お前の家族、こっちにいんのか?」
「いるよ。三区に住んでる」
すると航太が問いかける。
「これからどうするんだ? 仕事は?」
「特に何も考えてないなぁ。渡は智乃さんの物語を何らかの形にしたいって言ってたけど、俺にはそういう夢みたいなものもないし」
ため息をついてから東風谷は自嘲する。
「日南さんや君たちみたいに、恋人がいるわけでもない。むしろ、これから見つけていかなきゃなんだけど、まだ自分から求める気にもなれなくてねぇ」
彼はまだ北野響を失った悲しみから立ち直っていない様子だ。それも仕方のないことだと納得し、オレは視線をグラスへ移す。
「おっと、もう返信が来たらしい」
そう言って東風谷はデバイスを操作し、画面をこちらへ見せた。
「先着十名のところ、すでに八名が埋まってるってさ」
返信内容を読んでオレは苦い顔になる。
「最短一週間で収益化って、馬鹿じゃねぇのか」
「リスクゼロというのも怪しいだけだな。後から連絡を取ろうとした時には消えてるんだろう」
と、航太も呆れた表情だ。
東風谷は再びメッセージを打ち込み、送信する。
「こいつを警察に突き出すのはいいとして、それだけじゃ物足りない気がしない?」
「何しようとしてんだよ?」
「いや、別に何ってわけでもないけど、やっぱり勝手に詐欺に使われるのっていい気はしないし? ちょっとしたいたずら程度に
「やめておけ、東風谷。気持ちは分からなくもないが、警察に任せる方がいい」
「うーん、千葉くんが言うなら……っと、また返信きた」
二通目の返信を見て東風谷は笑った。さっきと同じようにオレたちへ画面を見せる。
「焦らせてきたよ。詐欺師ってのはおもしろいねぇ」
ついさっき九人目の申し込みがあったと知らせてきたのだ。枠が埋まってしまうのではないかと焦り、詐欺に引っかかってしまうわけだ。
「次の返信で支払いを
「そうだな」
どうにか解決できそうでほっとした。レモネードをごくごくと飲んでいると、航太が言う。
「楓が教えてくれてよかったな」
「本当、田村のおかげだよ」
と、東風谷までオレを見てきた。
「な、何だよ……」
思わずどぎまぎするオレだが、東風谷が問う。
「ところで、どうして教えてくれたんだい? こんなの、無視したってよかったのに」
言われてみればたしかにそうだ。でも無視できなかったのは、何故だろうか?
レモネードを飲み干し、グラスに残った氷を見つめながら考える。
「何か、嫌だなって思った。別に
「ああ、俺のこと考えてくれたんだ? 優しいところあるじゃん、田村」
「べ、別にお前のことがどうっていうわけでは」
慌てて言い訳するオレだったが、航太にぽんぽんと頭を撫でられて動きを止める。航太は優しい声で言った。
「友達だもんな」
「と、友達……!?」
頬が熱い。見ると東風谷はにこにこと笑っていた。
「俺たち、友達だもんな」
航太の言葉を繰り返す彼から視線をそらし、オレはうつむいた。
友達と言われたことが嬉しいのに、妙に切なくもあって、すごく恥ずかしかった。