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第103話 ちっぽけな僕たちは

 次の日、東風谷から警察へ行ってきたと報告があった。詐欺師確定、じきに逮捕されるだろうと書かれており、オレはほっとした。

 一方、世間では新たなニュースが話題になっていた。土屋美織が逮捕されたのだ。

 今日も航太の部屋へ来ていたオレは、ベッドに寝転がりながらつぶやいた。

「あーあ、とうとう逮捕されちまった」

 彼女は容疑を認めており、事故ではなかったことが明らかになって、ネットは騒然としている。

 彼女に恋をしていた樋上さんのことがちらっと脳裏をよぎったが、こればかりはどうしようもない。

 航太がベッドの端へ座り、オレのデバイスをのぞきこんでから言う。

「これでよかったんだろうか」

「何を今さら」

 横目に彼を見上げるオレだが、航太は真剣に悩んでいるようだ。

「僕は自分の正義を貫き通したつもりだが、それが正しいことだったのか、ちょっと自信がなくなってきた」

「間違ってないよ。航太は何も間違ってない」

 デバイスを閉じて脇へ置き、オレは上半身を起こす。

「むしろ、正しいことなんてない。きっと全部、何もかもが間違えてるんだから、正しいかどうかなんてどうでもいい」

 航太の背中へ腕を回して抱きついた。

「そうだろうか?」

「そうだよ、きっとそう。信じたいものだけが真実になるけど、そこに正しいとか間違いとかはない」

「……また、訳の分からないことを言うんだな」

 軽く苦笑しながらも、航太はオレを抱きしめた。

「ありがとう、楓。もう少し分かりやすい話をしてくれると嬉しい」

「せっかく人が気遣ってやってんのに文句かよ」

 航太がくすっと笑い、つられてオレも少し笑った。

「哲学は嫌いじゃないが、楓のそれはちょっと独特だ」

「そうか?」

「知的な楓はもちろん好きなんだが、ついていけないのが嫌なんだ」

「うーん、そうなのか」

 どうやらオレは航太を置いてけぼりにしてしまうことがあるらしい。

「けどさ、宇宙って膨張ぼうちょうしてるんだぜ? 相対的にオレたちは小さくなる」

「うん、それで?」

「オレたちからしたら細胞レベル、いや、それ以下かもしれないってくらいに、オレたちもまた小さい存在なんだ。いちいち悩んでるのって馬鹿らしくないか?」

「そうか、宇宙レベルで見るとたしかにそうなるな。未知の銀河もたくさんあるし、タキオンだってまだ見つかっていない」

「そう。だから細かいことは気にしない方がいいんだ」

「そういうお前も繊細なくせにな」

「なっ、それは……うぅー、人間なんだからしょうがねぇだろ」

「難しいな。結局、答えなんて出ないんだろう」

 そう言って航太はオレを押し倒した。

「ちっぽけな僕たちは、ちっぽけなりに幸福を追い求めるしかない」

 そっと唇を重ねて深くキスをする。伝わる体温に吐息が、じわりじわりと熱を上げていった。

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