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第107話 違和感しかない光景

「うわ、何だこれ……」

 虚構世界へ入るなり、オレは眉をしかめた。

 目の前に小川が流れていたが、途中で切れて砂地になっている。水はあふれることなく流れ続けており、物理法則に反していた。

「なるほど、結合しているな」

 と、航太が違和感しかない光景を見ながら言い、新しくC班の班長になった舞原さんも言う。

「おそらく、ここが境界線でしょうね」

「つまり、ここで分離すればいいんですね」

「ええ。でも、住人たちがどうなっているか確かめてからよ」

 うわ、めんどくせー。

「世界が結合しているため、住人たちが正しい世界にいるかどうかも分かりませんからね」

「そういうこと」

 なんとなく理解はするが、まさかこんなことになっていようとは。やはり破裂させない方がよかったのでは?

 そうは思っても口には出さず、オレはどこへともなく歩き始めた舞原さんの後をついていく。


 やがて小さな町へとたどり着いたのだが。

「あなた、お名前は?」

「え? わたしの、名前?」

 住人の少女は首をかしげ、舞原さんがオレたちを振り返る。

「千葉くん、どう考える?」

「そうですね……記憶分子の結合は、情報の結合でもありますから、情報がまざってしまったのかもしれません」

「言い換えると、設定がまざってしまったせいで住人は何も分からなくなっている、ということよね」

「ええ、そうです。厄介なことになりました」

 真面目な顔で返す航太の隣で、オレはため息をついた。

「っつーことは、どの住人がどの世界にいたか、調べないとなんねぇのか。めんどくせぇ」

 舞原さんが冷たい視線でオレを見た。

「田村くん、これは仕事よ?」

「分かってますけど、これまでと全然違うじゃないすか」

 文句を言うオレを見て、彼女は呆れた顔をした。

「それでもやるしかないの。文句なら『幕開け人』に言いなさい」

 そして舞原さんは再び少女へ話しかけ始めた。

 オレはなんとなく航太と目を合わせ、何とも言えない気持ちになる。こんなことになると分かっていたら、そりゃあ、協力なんてしなかった。

 けど、こうなってしまった以上、オレたち「幕引き人」が片付けるしかないのも分かる。

「あーあ、いっそ全部消しちまいたいぜ」

 と、オレがつぶやくと航太が苦笑した。

「それはダメだ。分離して元の形に戻してからでないと、消去するかどうかの判断もつかない」

「それは分かってっけどさぁ。やる気でねぇんだよ」

 くるりと舞原さんが振り返り、オレを見て呆れたように言う。

「さっきから文句ばかりねぇ、田村くん。外見通りでがっかりだわ」

「外見通りって言われても……」

「仕事内容が変わって残念なのは分かるけど、千葉くんを見習いなさい」

 航太を見ると、何故か含み笑いをしている。いったい何を考えているんだか。

 オレはむすっとしたまま「分かりました」と返す。

「気持ちがこもってないわ」

「うっ……わ、分かりました。ちゃんと真面目にします」

及第点きゅうだいてんってところね。やれやれ、先が思いやられるわ」

 と、舞原さんはわざとらしく言ってから、少女へ優しく声をかける。

「それじゃあ、みんなのいるところへ案内してもらえるかしら?」

「はい、こちらです」

 と、少女が歩き出し、舞原さんがついていく。

 航太はオレの隣へ並ぶと、小声で言った。

「呆れられるだけで済んでよかったな」

 それはそうかもしれないが、言い直しをさせられるのは不満だ。

 短気な土屋さんよりマシとも思えず、オレはこっそりとため息をついた。

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