「うわ、何だこれ……」
虚構世界へ入るなり、オレは眉をしかめた。
目の前に小川が流れていたが、途中で切れて砂地になっている。水はあふれることなく流れ続けており、物理法則に反していた。
「なるほど、結合しているな」
と、航太が違和感しかない光景を見ながら言い、新しくC班の班長になった舞原さんも言う。
「おそらく、ここが境界線でしょうね」
「つまり、ここで分離すればいいんですね」
「ええ。でも、住人たちがどうなっているか確かめてからよ」
うわ、めんどくせー。
「世界が結合しているため、住人たちが正しい世界にいるかどうかも分かりませんからね」
「そういうこと」
なんとなく理解はするが、まさかこんなことになっていようとは。やはり破裂させない方がよかったのでは?
そうは思っても口には出さず、オレはどこへともなく歩き始めた舞原さんの後をついていく。
やがて小さな町へとたどり着いたのだが。
「あなた、お名前は?」
「え? わたしの、名前?」
住人の少女は首をかしげ、舞原さんがオレたちを振り返る。
「千葉くん、どう考える?」
「そうですね……記憶分子の結合は、情報の結合でもありますから、情報がまざってしまったのかもしれません」
「言い換えると、設定がまざってしまったせいで住人は何も分からなくなっている、ということよね」
「ええ、そうです。厄介なことになりました」
真面目な顔で返す航太の隣で、オレはため息をついた。
「っつーことは、どの住人がどの世界にいたか、調べないとなんねぇのか。めんどくせぇ」
舞原さんが冷たい視線でオレを見た。
「田村くん、これは仕事よ?」
「分かってますけど、これまでと全然違うじゃないすか」
文句を言うオレを見て、彼女は呆れた顔をした。
「それでもやるしかないの。文句なら『幕開け人』に言いなさい」
そして舞原さんは再び少女へ話しかけ始めた。
オレはなんとなく航太と目を合わせ、何とも言えない気持ちになる。こんなことになると分かっていたら、そりゃあ、協力なんてしなかった。
けど、こうなってしまった以上、オレたち「幕引き人」が片付けるしかないのも分かる。
「あーあ、いっそ全部消しちまいたいぜ」
と、オレがつぶやくと航太が苦笑した。
「それはダメだ。分離して元の形に戻してからでないと、消去するかどうかの判断もつかない」
「それは分かってっけどさぁ。やる気でねぇんだよ」
くるりと舞原さんが振り返り、オレを見て呆れたように言う。
「さっきから文句ばかりねぇ、田村くん。外見通りでがっかりだわ」
「外見通りって言われても……」
「仕事内容が変わって残念なのは分かるけど、千葉くんを見習いなさい」
航太を見ると、何故か含み笑いをしている。いったい何を考えているんだか。
オレはむすっとしたまま「分かりました」と返す。
「気持ちがこもってないわ」
「うっ……わ、分かりました。ちゃんと真面目にします」
「
と、舞原さんはわざとらしく言ってから、少女へ優しく声をかける。
「それじゃあ、みんなのいるところへ案内してもらえるかしら?」
「はい、こちらです」
と、少女が歩き出し、舞原さんがついていく。
航太はオレの隣へ並ぶと、小声で言った。
「呆れられるだけで済んでよかったな」
それはそうかもしれないが、言い直しをさせられるのは不満だ。
短気な土屋さんよりマシとも思えず、オレはこっそりとため息をついた。