昼食を購入して空席を探していると、オレたちを呼ぶ声があった。
「千葉くん、田村くん。こっち空いてるよ」
深瀬さんだ。ちょうど彼の隣が空いており、その向かいも空席だった。
航太はすぐに「失礼します」と、深瀬さんの隣へ腰を下ろした。
オレは向かいに座り、深瀬さんが新人の寺石と食事をしていたことに気づく。
すると航太が先に名乗った。
「C班の千葉航太だ、よろしく」
「同じくC班の田村楓っす。よろしく」
と、オレも続ける。
寺石は「よろしくお願いします」と軽く頭を下げ、深瀬さんが航太へ言う。
「そっち、どうだった? うまく分離できたかい?」
「ええ、なんとか。ですが、以前よりも時間がかかりますね」
と、航太は答えながら箸を手に取る。オレも黙ってカレーにスプーンを入れた。
深瀬さんは眉尻を下げて言う。
「前みたいにさっさと消せばいいわけじゃないもんな。まずは状態を確かめて、住人を見つけて、正しい組み合わせを推理して、それからやっと分離作業だ」
「楓なんて、めんどくさがってモチベーションゼロですよ」
急に航太がそんなことを言い出し、オレはすかさず口を開く。
「だって全然楽しくねぇんだから、仕方ないだろ」
深瀬さんはかすかに苦笑し、寺石へ視線を向けた。
「田村くんは虚構の住人を消すのが得意でね。うちへ配属されてからまだ一年なのに、もう千五百人以上を消したんだ」
「えっ、すげぇ! もしかして、死神っすか!?」
「はあ?」
一部のやつらに死神と呼ばれているのは知っていたが、新人の口から聞かされるとむっとした。
横目ににらみつけてやるが、寺石はちっとも効いていない様子で言う。
「でっかい鎌で一気に消しちゃうんでしょう? すげー人がいるって聞いて、憧れてたんです!」
「お、おう、そうか……」
目をキラキラさせる寺石に、一転してオレは気圧されてしまう。憧れてたなんて言われるのは初めてだ。
「田村先輩と一緒の六組になれて、ガチ嬉しいっす!」
「それはいいけど、うるせぇよ。カツ丼、冷めてっぞ」
と、オレは恥ずかしさをごまかす。
「あ、はいっ」
慌てて寺石は食事に戻り、深瀬さんがちらりと航太を見る。
「舞原さんとはうまくやれそうかい?」
「ええ、土屋さんのように怒られることがないので」
と、航太が笑みを返すがオレは言う。
「オレはなんか嫌っすね。土屋さんの方が気が合ったかもしれないっす」
「そう? 舞原さん、だいぶ優しいと思うけど」
深瀬さんが少し首をかしげ、航太がたずねた。
「深瀬さんって、舞原さんと組んだことあるんでしたっけ?」
「うん、あるよ。六組に配属された最初の時、一緒の班だったんだ」
それは意外だ。
「あの人はわりと、自分から突っ込んでいくタイプだから、そういう意味では振り回されたりもしたけどね」
くすりと軽く笑い、深瀬さんはオレを見た。
「たぶん、田村くんをサポートするのに舞原さんが選ばれたんだと思う。うちの大事なエースだからね」
ぽかんとするオレの隣で、寺石が「エースかっけぇー!」と目を輝かせる。
そこまで大事にされている実感はないが、深瀬さんの観察眼が鋭いことは知っている。つまり、少なからず当たっているはずだ。
オレはほぼ無意識にうつむいた。
「そういうことなら、少しは頑張ります」
「うん、それがいいね。くれぐれも、寺石くんに追い越されないようにね」
深瀬さんがにっこりと笑い、オレは寺石と顔を見合わせてしまった。
「お前、研修中の成績よかったのか?」
「はいっ! 座学は二十位でしたけど、実践は一位っす!」
驚くオレへ深瀬さんが追い打ちをかけた。
「寺石くん、ボクシングやってるんだって。運動神経はいいし、パンチも力強かったよ」
格闘系か。体は細く見えるけど、脱いだらすごいんだろうな。
「楓にはいい刺激になるかもな」
航太がにやりと笑い、オレは負けず嫌いを発揮した。
「ふん、オレのが強いに決まってんだろ」
「自分もそう思います。千五百なんてすげーっすもん!」
寺石に言われて面食らった。ちょっとやりにくいかもしれないと思いつつ、オレは黙って食事に集中した。