目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第111話 迷子と弱点と上位互換

 前までは虚構の住人を消すために武器を使っていたが、今は世界を切り離すのに使用する。境界線と思われる部分を攻撃することで分離し、元の形へ戻すのだ。

 そのために境界線を探している時だった。

 ふと気づくと、近くに誰の姿もなかった。

「え、あれ?」

 さっきまで舞原さんと航太と、三人でまとまって歩いていたはずなのに。

 まさか置いていかれた? 何で?

 不安になる心を差し置いて、脳は冷静に状況を確認し始める。

 まずここは町の中だ。ただし瓦礫がれきがあちこちに散らばっていて、どこが道でどれが家か分からない。だから慎重に歩いていたはずで、オレがはぐれたのは境界線っぽいものを見つけて横へそれてしまったからだ。

 結果的にオレが見つけたものは境界線ではなく、ただの切り裂かれた布だった。

 で、今である。

「……お、おーい、どこ行ったんだよ、航太ぁ」

 声を出してみたが弱々しく、いかにも心細いのがバレバレだ。きっと顔も泣きそうになっている。

 こんな姿、航太たちには見つかりたくないし、むしろオレの方から彼らを見つけて「なんだよ、こんなところにいたのかよ」と、迷惑してたのはこっちなんだと言いたい。

 そうだ、そうしよう。オレが見つければいい。

 気持ちを強く持って歩き出した直後、前方のくずれかけた壁から航太が姿を現した。

「っ、航太!」

 ほっとして駆け出したオレを、航太が両腕で受け止める。

「なんだ、こんなところにいたのか」

「それはこっちの台詞だ!」

 と、ゆるみきった顔を上げ、彼のすぐ横に舞原さんがいたことに今さら気づく。

「あ……」

「何よ、その顔。っていうか田村くん、大人でしょ? 精神年齢、うちの子と変わらないんじゃない?」

 嫌味を言われて傷つくオレだが、返す言葉がない。舞原さんのお子さんはたしかまだ四歳だったはずなので、そこは否定したかったけど。

「しょうがないんですよ、舞原さん。こいつ、宇宙育ちなんで」

 と、航太がオレを抱きしめたままフォローを入れてくれた、かと思いきやにこりと笑う。

「寂しいのが嫌いで甘えん坊で、僕と一緒にいないとダメなんです」

「オレの弱点、一気に教えんな!」

 すかさず声を荒らげたが、舞原さんはいかにも意地悪そうな微笑みを浮かべる。

「あらあら、うちの子でも我慢くらいできるのに。もっと大人にならなくちゃダメよ?」

「うっ……ど、努力します。っつーか、そろそろ離せ」

 と、オレは航太を見る。すると彼は言った。

「もう大丈夫か? 手、つないで歩くか?」

「嫌だよ」

「いちゃつくのは許してくれるそうだぞ」

「いつの間に許可とってんだよ!?」

 もうやだ、意味分からん。恥ずかしいやら情けないやら、ほっとするやらでまた泣きそうになってきた。

 無理やり航太の腕から抜け出して、オレは二人へ言った。

「それより仕事でしょ! 境界線探しますよ!」

「そうだったな。もう迷子になるんじゃないぞ」

「なんねぇよ、バーカ!」

 と、歩き出すオレの隣を航太がついてきて、後ろから舞原さんの声がした。

「今度から楓ちゃんって呼ぼうかしら?」

「やめてくださいよ!?」

「あら、かーくんの方がいい?」

「どっちも嫌です! 名字でお願いしますっ」

 舞原さんは何故かにこにこと笑っており、やっぱり苦手だと思った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?