前までは虚構の住人を消すために武器を使っていたが、今は世界を切り離すのに使用する。境界線と思われる部分を攻撃することで分離し、元の形へ戻すのだ。
そのために境界線を探している時だった。
ふと気づくと、近くに誰の姿もなかった。
「え、あれ?」
さっきまで舞原さんと航太と、三人でまとまって歩いていたはずなのに。
まさか置いていかれた? 何で?
不安になる心を差し置いて、脳は冷静に状況を確認し始める。
まずここは町の中だ。ただし
結果的にオレが見つけたものは境界線ではなく、ただの切り裂かれた布だった。
で、今である。
「……お、おーい、どこ行ったんだよ、航太ぁ」
声を出してみたが弱々しく、いかにも心細いのがバレバレだ。きっと顔も泣きそうになっている。
こんな姿、航太たちには見つかりたくないし、むしろオレの方から彼らを見つけて「なんだよ、こんなところにいたのかよ」と、迷惑してたのはこっちなんだと言いたい。
そうだ、そうしよう。オレが見つければいい。
気持ちを強く持って歩き出した直後、前方のくずれかけた壁から航太が姿を現した。
「っ、航太!」
ほっとして駆け出したオレを、航太が両腕で受け止める。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「それはこっちの台詞だ!」
と、ゆるみきった顔を上げ、彼のすぐ横に舞原さんがいたことに今さら気づく。
「あ……」
「何よ、その顔。っていうか田村くん、大人でしょ? 精神年齢、うちの子と変わらないんじゃない?」
嫌味を言われて傷つくオレだが、返す言葉がない。舞原さんのお子さんはたしかまだ四歳だったはずなので、そこは否定したかったけど。
「しょうがないんですよ、舞原さん。こいつ、宇宙育ちなんで」
と、航太がオレを抱きしめたままフォローを入れてくれた、かと思いきやにこりと笑う。
「寂しいのが嫌いで甘えん坊で、僕と一緒にいないとダメなんです」
「オレの弱点、一気に教えんな!」
すかさず声を荒らげたが、舞原さんはいかにも意地悪そうな微笑みを浮かべる。
「あらあら、うちの子でも我慢くらいできるのに。もっと大人にならなくちゃダメよ?」
「うっ……ど、努力します。っつーか、そろそろ離せ」
と、オレは航太を見る。すると彼は言った。
「もう大丈夫か? 手、つないで歩くか?」
「嫌だよ」
「いちゃつくのは許してくれるそうだぞ」
「いつの間に許可とってんだよ!?」
もうやだ、意味分からん。恥ずかしいやら情けないやら、ほっとするやらでまた泣きそうになってきた。
無理やり航太の腕から抜け出して、オレは二人へ言った。
「それより仕事でしょ! 境界線探しますよ!」
「そうだったな。もう迷子になるんじゃないぞ」
「なんねぇよ、バーカ!」
と、歩き出すオレの隣を航太がついてきて、後ろから舞原さんの声がした。
「今度から楓ちゃんって呼ぼうかしら?」
「やめてくださいよ!?」
「あら、かーくんの方がいい?」
「どっちも嫌です! 名字でお願いしますっ」
舞原さんは何故かにこにこと笑っており、やっぱり苦手だと思った。