自分の部屋で気が済むまで泣いて、少しだけ眠って、洗濯物を取りに行った。
それから食堂で昼飯を食べてから、航太の部屋へ行った。
「待ってたぞ」
と、笑顔で迎えてくれた彼を見るなり、急に気持ちが沈んでしまった。
靴を脱いで室内へ上がり、ダイニングへ入ったところで航太が言う。
「どうかしたか? 元気がないみたいだが」
「……ちょっとだけ、ハグして」
小さな声で言いつつ彼に抱きつき、肩に頬を寄せて息をつく。
「何かあったんだな」
「何もねぇよ。ただ、甘えたいだけ……」
素直になれないのは悪い癖だが、樋上さんのことを話したら航太の気持ちも暗くなってしまう。
航太はぎゅっとオレを抱きしめてくれた。
しばらく黙って抱き合っていると、ふいに航太が口を開いた。
「そうだ、ゲームをしないか?」
「え、急に何だよ?」
戸惑いながら顔を上げたオレへにこにこと笑う。
「マーダーミステリーだ。この前見つけてちょっとやってみたんだが、なかなかおもしろくてな。二人プレイもできるから、やってみたいと思って」
航太の目がきらきらと輝いている。これはどうやら嘘ではなさそうだ。
どちらともなく離れて奥の部屋へ移動する。
「いいけど、どうやってやるんだ?」
「そっちにもアプリをインストールしてもらう必要があるな。貸してくれるか?」
「ああ」
一緒にベッドに腰かけ、オレは左手首からデバイスを外して渡した。
「あっ、暗証番号」
「5103149だろ?」
「何で知ってんだよっ」
図星を当てられて思わず頬が熱くなる。
「どういう意味かは知らないぞ。見たことがあるだけだ」
「そ、それでもダメだろ」
オレも航太の暗証番号を知っているのは棚に上げるとして、意味まで知ってたらどうしようかと思った。まさか語呂合わせで航太大好き、にしているなんて知られたら、恥ずかしすぎて死ぬ。
オレがじっと恥ずかしさに耐えている間に、航太は「ミステリー☆パーティー」とかいうアプリをインストールし終えた。
「できたぞ」
「おう」
デバイスを受け取り、ベルトを縮めて背面に収納する。それからモニターを引き出してアプリを起動させた。
どの層に向けられたものなのか、妙にほのぼのとしたイラストのアプリだった。チュートリアルは特に無いようで、子どもでもできるシンプルなゲームのようだ。
航太もまた自分のデバイスを操作して言う。
「下に二人プレイっていう文字、あるだろう?」
「これ押せばいいのか?」
「ああ、そうだ。自動的に周辺機器を検索してくれる」
その言葉通り、数秒ほどでオレと航太のデバイスの
「よし。次はプレイするシナリオを選ぶぞ。どれがいい?」
「どれでもいい」
「じゃあ、試食会殺人事件にしよう」
航太が選ぶとオレの画面も切り替わった。
舞台は架空の町「みかん町」。駅前にそびえ立つホテルで行われた新作ケーキの試食会で殺人事件が起きた。
聞きつけた探偵と助手は現場へ急行し……というのが前置き。
「お前、どっちの役がいい?」
「助手かな」
「じゃあ、僕が探偵だな」
それぞれに役割を選び、ついにゲームが始まった。