帰ってから航太にメッセージを送った。
東風谷と会ったこと、ぼんやりしていた女性のこと、記憶が思い出せず、混濁している人たちがいるらしいこと。
航太も気になるようで、自分でも調べてみると返信があった。
翌日、いつものように班ごとに集まってスケジュールを確認している時だった。
ふとB班の方から深瀬さんの声が聞こえてきた。
「ごめん、寺石くん。君はもう少し考えるべきだ」
寺石がはっとし、深瀬さんは真面目な顔で言う。
「ヒーローになりたいのはいいけれど、どうも君の場合は信念がない気がする。どうしてヒーローになりたいのか、ヒーローになってからどうしたいのか、それをよく考えて、自分なりにブレない芯を見つけるべきだよ」
「じ、自分は……」
「えらそうなこと言ってごめんね。でもさ、ただヒーローになりたいってだけじゃ、本物のヒーローにはなれないんじゃないかと思うんだ。考えてごらんよ、君が憧れたヒーローはみんな、信念を持って行動してたんじゃないかな?」
いったい何があったのか知らないが、ずいぶんと手厳しい。
寺石はうつむき、小さな声で「分かりません」と返した。そうだよな、彼はいわゆる脳筋タイプで考えるのは苦手だ。
「それに、焦らなくていいよ。まだアカシックレコードの破裂による影響ははっきりしてないし、虚構世界の幽霊のことだってよく分かってないんだから」
と、深瀬さんが言うと、寺石は声を震わせながら返した。
「記憶が思い出せないって、聞きました」
「え?」
「最近、ぼんやりしてる人が多いのは破裂したせいだって、友達が話してました」
深瀬さんが呆然とし、オレの隣で航太が口を開く。
「主にSNSへの投稿で見られるんですが、一部の人たちの記憶が混濁しているようです。おそらくは寺石が言うように、アカシックレコードが破裂して、記憶分子が結合してしまったせいでしょう」
「そ、そんな……」
どうやら深瀬さんは知らなかったらしい。困惑する彼へ舞原さんも言った。
「うちの旦那もここのところ、ぼんやりしてるわ。若年性認知症かと思って心配してたけど、そうじゃなかったみたいね」
影響は彼女の近くにも現れていたようだ。
深瀬さんは納得したらしく、一つ息をついた。
「そういうことでしたか。ありがとうございます、舞原さん、千葉くんも」
「気にしないで。さて、私たちはもう行くわよ」
と、舞原さんが歩き出し、オレたちは後をついていく。
廊下へ出たところで航太が言った。
「寺石は本当にヒーローになりたいらしいな」
「ああ、ガキみてぇな夢を本気で追ってやがる」
「それを深瀬さんに
ちょっと可哀想な気がするが、現実的ではないのもたしかだ。
「B班、大丈夫かな」
「ちょっと気になるところだな」
航太の尊敬する深瀬さんと、オレに懐いている寺石の関係がぎくしゃくしないといいのだけれど。