航太の推理がさえると、分離作業はその分だけ早く終わる。
「まったく、今日も千葉くんしか働いてないじゃない」
「だってオレ、馬鹿ですもん」
言い返したオレへ視線をやり、舞原さんは複雑そうな顔をする。
「隠してるだけでしょ?」
オレはにやりと笑った。能ある鷹だから爪を隠せるのだ。
「まったく、やる気がないんだから」
「肉体労働だけやってたいっす」
「そんな貧弱な体で何言ってるんだか」
舞原さんは厳しい人だが、わりと融通が効く。そのため、オレは気兼ねなく言葉をかわせるようになっていた。
土屋さんはよけいな私語を嫌う人だったから、そういう意味では舞原さんの方がマシだ。
オフィスへ戻り、それぞれデスクへ着いて報告書を作成する。
さすがにこの時はみんな静かなのだが、途中でA班が帰ってきた。
「お疲れさまです」
と、それぞれに灰塚さんたちへ声をかける。
彼らの返答を受けつつ、またオレはキーボードに手を置いたのだが……樋上さんは今日も暗い顔をしていた。
どうやら、まだ土屋さんのことを引きずっているらしい。早く彼にも新しい恋が訪れるといいのにな。
再び室内が静寂に包まれ、十分ほど経った頃。航太が席を立った。
「すみません、灰塚さん」
と、そばへ寄っていって声をかけた。
「何だ、どうかしたか?」
「ええ、その……B班のことで」
B班はまだ戻ってきていない。今がチャンスだと航太は考えたようだ。
オレは椅子の背にもたれながら、横目に航太たちの様子をながめた。
「深瀬か?」
「ええ。今朝、深瀬さんが寺石を
「諭すってどういう内容だ?」
「寺石はヒーローになりたいようで、虚構世界の幽霊をヒーローとして救いたいと話していました。それに対して深瀬さんが、もっとよく考えた方がいいといった意味のことを返していて」
灰塚さんは腕を組んだ。
「寺石の反応はどうだった?」
「表面的にはさほど変化があったようには見えませんでしたが……」
航太が言葉をにごすと、灰塚さんはうなずいた。
「分かった。あとで深瀬に聞いてみよう。教えてくれてありがとな」
「いえ、出過ぎた
「そんなことないさ。千葉は深瀬のことが心配なんだろう? そういうのは出過ぎた真似とは言わないんだ」
と、灰塚さんは優しく笑った。
航太はほっとしたように「深瀬さんのこと、よろしくお願いします」と、頭を下げた。