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第121話 出過ぎた真似

 航太の推理がさえると、分離作業はその分だけ早く終わる。

「まったく、今日も千葉くんしか働いてないじゃない」

「だってオレ、馬鹿ですもん」

 言い返したオレへ視線をやり、舞原さんは複雑そうな顔をする。

「隠してるだけでしょ?」

 オレはにやりと笑った。能ある鷹だから爪を隠せるのだ。

「まったく、やる気がないんだから」

「肉体労働だけやってたいっす」

「そんな貧弱な体で何言ってるんだか」

 舞原さんは厳しい人だが、わりと融通が効く。そのため、オレは気兼ねなく言葉をかわせるようになっていた。

 土屋さんはよけいな私語を嫌う人だったから、そういう意味では舞原さんの方がマシだ。

 オフィスへ戻り、それぞれデスクへ着いて報告書を作成する。

 さすがにこの時はみんな静かなのだが、途中でA班が帰ってきた。

「お疲れさまです」

 と、それぞれに灰塚さんたちへ声をかける。

 彼らの返答を受けつつ、またオレはキーボードに手を置いたのだが……樋上さんは今日も暗い顔をしていた。

 どうやら、まだ土屋さんのことを引きずっているらしい。早く彼にも新しい恋が訪れるといいのにな。

 再び室内が静寂に包まれ、十分ほど経った頃。航太が席を立った。

「すみません、灰塚さん」

 と、そばへ寄っていって声をかけた。

「何だ、どうかしたか?」

「ええ、その……B班のことで」

 B班はまだ戻ってきていない。今がチャンスだと航太は考えたようだ。

 オレは椅子の背にもたれながら、横目に航太たちの様子をながめた。

「深瀬か?」

「ええ。今朝、深瀬さんが寺石をさとす場面があったものですから、少し心配になったんです」

「諭すってどういう内容だ?」

「寺石はヒーローになりたいようで、虚構世界の幽霊をヒーローとして救いたいと話していました。それに対して深瀬さんが、もっとよく考えた方がいいといった意味のことを返していて」

 灰塚さんは腕を組んだ。

「寺石の反応はどうだった?」

「表面的にはさほど変化があったようには見えませんでしたが……」

 航太が言葉をにごすと、灰塚さんはうなずいた。

「分かった。あとで深瀬に聞いてみよう。教えてくれてありがとな」

「いえ、出過ぎた真似まねをしてしまい、申し訳ありません」

「そんなことないさ。千葉は深瀬のことが心配なんだろう? そういうのは出過ぎた真似とは言わないんだ」

 と、灰塚さんは優しく笑った。

 航太はほっとしたように「深瀬さんのこと、よろしくお願いします」と、頭を下げた。

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