昼休みに入ると航太が言った。
「すまない、楓。ちょっと虚構世界管理部へ行ってくる」
「え、何で?」
「少し気になることがあるんだ。あそこには日南さんもいるから、話を聞いてくる」
「……そっか。分かった」
航太が出て行くのを見送ると、今度は寺石が話しかけてきた。
「あの、田村先輩。よければ一緒に昼飯、食いませんか?」
「ああ、いいけど」
「ちょっと相談したいことがあるんです」
マジか。びっくりする一方で、やっぱり今朝のことだろうかと考える。
「分かった。売店行こうぜ」
「はい」
二人でゆっくり話をするなら、売店で買って外で食べるのがいい。敷地内にはベンチがいくつも設置されているし、他の誰かに聞かれる心配もない。
「で?」
カレーパンの袋を開けながらオレが言うと、寺石は小さくため息をついた。
「深瀬さんのこと、なんすけど……」
やっぱりか。
「いい人なのは分かるんです。でもちょっと、怖いなって思っちゃって」
苦笑する寺石を見つつ、オレは言葉を選ぶ。
「今朝のこと、引きずってたのか」
「はい。あんな風に否定されるとは思ってなくて」
「うーん、否定したわけじゃねぇと思うけどな」
パンを食べ進めながらオレは言う。
「深瀬さんはなんつーか、真面目なんだよ。言葉に対してもそうだ」
「言葉に真面目、っすか?」
「だから、お前の言葉が軽いのが見てられなかったんだよ」
寺石は無言になり、焼きそばパンを一口かじる。
「口では何とでも言えるからな。そうじゃなくて、中身が
「……」
「夢を持つのは勝手だし、好きにすりゃいいよ。でもさ、仕事は三人でするものだろ? それに夢を持ち込むなってことだよ」
「……」
「持ち込むなら中身がないとダメで、それが深瀬さんの言う信念ってやつなんだ。分かるか?」
「……分からないっす」
ああ、難しい話をしても理解できねぇか。
オレは紙パックのレモン牛乳を飲んでから言葉を変える。
「深瀬さんは怖い人じゃねぇよ。ただ、言葉に敏感で、つい毒を吐いちまうんだ。それも遅効性の毒をな」
「ちこうせい……?」
「後からじわじわ効いてくるやつだよ。航太はそうしたところも気に入って、深瀬さんを尊敬してる。オレはまあ、航太ほどじゃねぇけど、先輩として
「……難しいですね」
寺石が苦笑いを浮かべ、オレはうなずいた。
「そうだな」
コミュニケーションに関しては、オレも人のことは言えない。けれど、寺石が悩んでいるなら力になりたいと思う。
「深瀬さんも班長になるのは初めてだし、あの人もきっと悩んでるよ」
すると寺石がオレをまっすぐに見つめた。
「先輩はどっちの味方なんですか?」
「えっ、それは……」
どっちでもないと無難な返答をしたいところだが、それではダメな気がした。
「別に、どっちってわけでもねぇけど……その、どちらかと言えば、寺石の味方でありたいよ」
言ってから恥ずかしくなり、もぐもぐとパンを食べる。
「ありがとうございます! 田村先輩、大好きっす!」
と、寺石が軽く言ってのけて、オレはますます顔が熱くなるのだった。