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第124話 楓の暗証番号

 航太が真面目なことはよく知っている。ただ、あまりに真面目すぎて時々、微妙にズレた発言をする。

 夕食を終えて食卓で向かい合い、オレはたずねた。

「はっきり聞かせてもらうけど、寺石に嫉妬してるだろ?」

「いや、別に」

「何でだよっ」

 昨日の昼休み、少しは嫉妬してくれたんじゃないかと期待したのに!

 航太は真面目な顔のまま答えた。

「後輩だろう? 楓に懐いているという点では、たしかに気にならないこともない。けど、そういう関係でないことくらいは僕にも分かる」

 なんて冷静な分析だ。日南に嫉妬していたオレが馬鹿みたいじゃないか。

「じゃあ、言い方を変える。昨日、オレは寺石にめちゃくちゃ恥ずかしい思いをさせられた」

 じっとオレを見つめて航太は言う。

「変なことを言われたのか?」

「大好きって言われた」

「ああ、よかったじゃないか」

 やっぱり嫉妬しねぇのか。むっとしてしまうオレだが、幼稚なことも分かっている。

「少しくらい嫉妬しろよ」

「しないよ。だって楓は僕のことが大好きだろう?」

「っ……」

 全部バレバレかよと思ったら、航太はにこりと笑った。

「ゲームで数字の語呂合わせを使った暗号文が出てきてな。それをヒントに、楓の暗証番号を解読した」

「うわあああああ!」

 ついに解読されたのか、あれが!?

 恥ずかしすぎて頭を抱えるオレにかまわず、航太は機嫌よく言った。

「航太大好き、だろう? 僕も楓大好きに変えようかと思ったよ」

「やめろぉ……恥ずかしいからやめてくれぇ……っ」

 クソ、航太がマダミスにハマってることを甘く見ていた。まさかあの語呂合わせが解読されてしまうなんて。

「っつーか、いつまでマダミスやってんだよ」

 と、オレはちらりと目を上げて彼を見る。

 当然のように航太は返した。

「全部のシナリオをクリアするまでだ」

「そんなにハマってんのか」

 航太がゲームにハマるなんてめずらしいこともあるものだ。

「最初はちょっとした好奇心だったんだ。推理力を鍛えたいと思ってインストールしてみたら、なかなかおもしろくてな」

「推理力、って……」

「ああ、仕事に活かすためだぞ」

 真面目すぎる。どうして航太はこんなにも真面目なんだ。

「もしかして、幽霊のことも推理で解決しようとか思ってねぇよな?」

 オレの問いかけに航太は少し困ったように笑った。

「そのつもりだ。だから昨日は日南さんへ会いに行った」

 まったく、あいかわらず好奇心のまま突っ走りやがる。

 でも、オレはそんな彼のことが嫌いではないのだった。

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