航太が真面目なことはよく知っている。ただ、あまりに真面目すぎて時々、微妙にズレた発言をする。
夕食を終えて食卓で向かい合い、オレはたずねた。
「はっきり聞かせてもらうけど、寺石に嫉妬してるだろ?」
「いや、別に」
「何でだよっ」
昨日の昼休み、少しは嫉妬してくれたんじゃないかと期待したのに!
航太は真面目な顔のまま答えた。
「後輩だろう? 楓に懐いているという点では、たしかに気にならないこともない。けど、そういう関係でないことくらいは僕にも分かる」
なんて冷静な分析だ。日南に嫉妬していたオレが馬鹿みたいじゃないか。
「じゃあ、言い方を変える。昨日、オレは寺石にめちゃくちゃ恥ずかしい思いをさせられた」
じっとオレを見つめて航太は言う。
「変なことを言われたのか?」
「大好きって言われた」
「ああ、よかったじゃないか」
やっぱり嫉妬しねぇのか。むっとしてしまうオレだが、幼稚なことも分かっている。
「少しくらい嫉妬しろよ」
「しないよ。だって楓は僕のことが大好きだろう?」
「っ……」
全部バレバレかよと思ったら、航太はにこりと笑った。
「ゲームで数字の語呂合わせを使った暗号文が出てきてな。それをヒントに、楓の暗証番号を解読した」
「うわあああああ!」
ついに解読されたのか、あれが!?
恥ずかしすぎて頭を抱えるオレにかまわず、航太は機嫌よく言った。
「航太大好き、だろう? 僕も楓大好きに変えようかと思ったよ」
「やめろぉ……恥ずかしいからやめてくれぇ……っ」
クソ、航太がマダミスにハマってることを甘く見ていた。まさかあの語呂合わせが解読されてしまうなんて。
「っつーか、いつまでマダミスやってんだよ」
と、オレはちらりと目を上げて彼を見る。
当然のように航太は返した。
「全部のシナリオをクリアするまでだ」
「そんなにハマってんのか」
航太がゲームにハマるなんてめずらしいこともあるものだ。
「最初はちょっとした好奇心だったんだ。推理力を鍛えたいと思ってインストールしてみたら、なかなかおもしろくてな」
「推理力、って……」
「ああ、仕事に活かすためだぞ」
真面目すぎる。どうして航太はこんなにも真面目なんだ。
「もしかして、幽霊のことも推理で解決しようとか思ってねぇよな?」
オレの問いかけに航太は少し困ったように笑った。
「そのつもりだ。だから昨日は日南さんへ会いに行った」
まったく、あいかわらず好奇心のまま突っ走りやがる。
でも、オレはそんな彼のことが嫌いではないのだった。