目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第125話 ボーイズラブ・前編

「あら、とんでもないものが回ってきたわね」

 電子メモパッドを見ながら舞原さんがつぶやいた。

 怪訝に思うオレたちへ顔を向け、彼女はにこりと微笑む。

「ボーイズラブの世界だそうよ」

 げっ、BL!?

 ぎょっとするオレだが航太は真面目な顔で返す。

「いつか来ると思っていたんです。楽しみですね」

「何でだよっ」

 思わずツッコんだオレへ航太は言う。

「宇宙育ちだから知らないのか? BL」

「い、いや、知ってはいる、けど……っ」

 男同士の恋愛を描いた女性向けのジャンルだろ? なんか、やたらエッチな感じの……。

「顔、赤いわよ?」

「っ、だだだ、だって!」

「落ち着け、楓。成人向けじゃないぞ」

「じゃなくてもやべーのあるじゃん!」

 叫んだオレを見て舞原さんが腑に落ちた。

「ああ、性的表現があるんじゃないかと想像して、赤くなってたのね」

「そうなんすけど、認めたくないっ!」

 まるでオレがスケベみたいじゃないか!!

 すると航太が半ば呆れたように言う。

「だから落ち着くんだ、楓。そういう虚構はそれ専門の『幕引き人』がいるだろう?」

 はっとして思い出す。そうだった、九組が成人向けを専門に扱っていたはずだ。つまり、こっちにそうしたものが来ることはない。

「それじゃあ、行きましょうか」

「はい」

 二人が勝手に歩き出し、オレは慌てて追いかけた。

「ちょっ、待ってくださいって!」


 いったいどんな虚構世界かと思っていたが、意外にも普通だった。

「日本だ」

「ああ、住宅地だな」

 と、航太が返す。

 よくある現代日本を舞台にしたもので、特に違和感もない。

「歩いてみましょう」

 と、舞原さんが先頭に立ち、オレたちは静かな住宅街を散策する。

 道の左右に一軒家が建ち並び、地面はグレーのアスファルト。やはり、これまでに何度も見てきた景色と変わらない。

「あ、一人いたわ」

 前方に学生服を着た少年が佇んでいた。色は白く中性的な顔立ちで、いわゆる美形というやつだ。

 すると航太がひらめいた。

「もしかして今回は、受けと攻めの組み合わせを推理しなければならないのでは?」

 受けと攻め、すなわちネコとタチ。

「おもしろいわね、それ!」

 途端に舞原さんが目を輝かせ、航太も何故か嬉しそうにうなずいた。

「やる気が出てきましたね」

「ええ。っていうか千葉くん、腐男子なの?」

「海外のBLですが、大学時代に漫画を読みあさりました」

「あら、それじゃあ腐女子歴二十年の私には勝てないわね」

 腐女子だったのかよ、舞原さん……マジか。

 っつーか、航太も何でBL読んでんだよ。好奇心旺盛にもほどがあるだろ。

 楽しそうにする二人の背中を、オレは複雑な気持ちで見つめた。


 見つけた住人は先ほどの学生服とは違う制服の少年が一人、私服の大学生っぽい男が二人、スーツ姿の男が一人と、ジャージ姿の男が一人。合計六人だ。

「うーん、年上受けかもしれないと思うと難しいわね」

 顎に手をやりながら舞原さんが悩み、航太も言う。

「ジャージの男性は学生にも見えるし、体育教師のようにも見えますね」

「ええ、年齢不詳の顔してるわ」

「受けか攻めか、どう決めたらいいでしょう?」

 二人は顔を見合わせ、舞原さんが言った。

「好みで決めてもいい?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?