金曜の夕方。報告書もすでに書き終えてしまい、あとは待機という名の暇をつぶしていた時だった。
B班が戻ってきたのを見て、航太が深瀬さんへ声をかけた。
「深瀬さん、最新情報が入りましたよ」
「え、本当かい? ちょっと待って、すぐに報告書仕上げるから」
「分かりました」
深瀬さんはすぐにデスクへ向かい、あいかわらず迷いのないタイピングで報告書を書いていく。
一方、航太の隣では寺石が苦戦している様子だ。助けてやりたい気もするが、オレも時々漢字を誤変換してしまうので、助けられない。
あっという間に深瀬さんは仕事を終わらせ、航太の方を振り返った。
「それで?」
手招きされた航太はまだ戻ってきていない樋上さんの席へ座り、最新情報を口にする。
「はい。管理部では新たに気になる現象が確認されていて、それは虚構の住人がネガティブであることだそうです」
「ネガティブ?」
オウム返しをする深瀬さん。オレは内心でびっくりしていた。まさに昨日の虚構じゃないか。
どこで情報を入手したのか、航太は話を続ける。
「深瀬さんたちは見てませんか? 明るいはずの虚構世界で、何故か住人たちが一様に悲しげというか、元気がないといったようなことは」
はっとして深瀬さんがうなずく。
「あった。一度だけ、絵本の世界なのに住人たちがみんな暗い顔をしてたよ」
「それです。そうしたネガティブな住人があちらこちらで報告されているらしく、原因を調査中だそうです」
やっぱり日南から聞いたんだろうなぁ……昨夜はオレ、航太の部屋に行かなかったし。
「なるほど。やっぱりあれは異常だったんだね」
と、深瀬さんが納得した様子を見せるが、航太の方は険しい顔になる。
「ここからは推測になります。ネガティブな住人たちと、赤ん坊の幽霊とがもしも関係しているとしたら、どういうことなのか考えてみました」
出た、航太の推理。まったく呆れたことに、探偵ごっこがよっぽど楽しくなってしまったようだ。
深瀬さんは穏やかにうながした。
「話してみて」
「まず事実として、幽霊は虚構世界のあちらこちらへ移動し続けています。一箇所にとどまることはありません」
「うん、そうだね」
「対して住人たちはそれぞれの虚構世界に留まっています。そして幽霊は笑っている」
「うん」
「幽霊が住人たちと接触することで、彼らからポジティブな感情を吸い取っているのではないでしょうか?」
うーん、ちょっと論理が
しかし深瀬さんは神妙な顔でつぶやく。
「感情を吸い取る……まさか」
何だ? 何か知ってそうな雰囲気だぞ。
気になったオレは深瀬さんの様子をじっと見つめた。