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第128話 親しさ故の言動

 航太も深瀬さんの様子を察したようだ。少し慎重な口調でたずねた。

「どうかしましたか?」

「ああ、いや……えーと」

 深瀬さんは視線を外し、ごまかそうとしてあからさまに話題をそらした。

「仮に千葉くんの説が正しいとして、対策はあるのかな?」

 航太は怪訝そうにしながらも、詮索せずに返した。

「まだ具体的にどうしたらいいかは分かりませんね。ですが、幽霊が元凶げんきょうであるならば、捕まえるのがいいでしょう」

「管理部では幽霊の居場所、突き止められたの?」

「いえ、リアルタイムでは追えていないそうです。幽霊対策班を作って、検索に長けた精鋭で調査をしているとは言いますが、なかなか難しいようで」

「そうか。でも、大きくなってるんだったよな? それなら痕跡もはっきりするんじゃないか?」

「まだ結合している記憶が多いので、その分だけノイズになっているんですよ。正確な情報をつかむには、分離作業を進めていくしかありません」

「あー、そういうことか」

 深瀬さんが顔をしかめてため息をつく。

 アカシックレコードの状態を元に戻さなければ、記憶情報を検索できない。検索できなければ、幽霊の居場所を突き止められない。

「一応、僕と楓で作成した精密検索システムを使用していますが、現在の状況では……」

「ん? 今、なんて言った?」

「現在の状況では?」

「いや、その前」

「精密検索システム、ですか?」

「千葉くんが作ったの?」

「楓もです」

 深瀬さんがこちらを見て、思わず視線が合う。

 恥ずかしくなったオレは席を立ち、背を向けるようにソファへ座り込んだ。

「田村くん、そんなことできたのか」

「彼の得意分野ですよ。僕では足元にもおよびません」

 航太がどんな顔をしているか、見なくても分かる。絶対ににっこりと笑っているはずだ。

 すると、報告書を作成し終えた寺石がオレの方へ来た。

「田村先輩、褒められてますよ! すげーじゃないすか!」

「すごくねぇよ」

 とっさに苦い顔を作るオレだが、寺石には効かなかった。

「恥ずかしがってます? 先輩、可愛いー!」

「お前まで可愛いとか言うなっ」

 親しさ故の言動なのは分かるが、年下に可愛いと言われるのは困る。いや、年上から言われても嫌だし、航太に言われるのもまだ恥ずかしいけれど。

 寺石は楽しそうに笑っているばかりで、こちらを見ていたらしい深瀬さんが言う。

「まあ、いいや。ありがとう、千葉くん」

「いえ、一緒に考えてくれるのは深瀬さんくらいですから」

「そうだね。俺も幽霊のことは気になるし、教えてもらえてありがたいよ」

「はい。では、また」

 と、航太が自分の席へと戻り、オレは助けを求めようかどうか迷った。

「っていうか先輩、聞いてくださいよ。実はさっき……」

「ちょっ、勝手に隣に座んな」

「えー、いいじゃないですか。それより聞いてくださいってば」

 航太の背中を見るが、振り向く様子は微塵みじんもない。

 くっついてくる寺石に抵抗していると、深瀬さんが廊下へ出ていくのが見えた。その手にはデバイスが握られており、どうやら誰かに連絡するつもりのようだった。

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