航太も深瀬さんの様子を察したようだ。少し慎重な口調でたずねた。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや……えーと」
深瀬さんは視線を外し、ごまかそうとしてあからさまに話題をそらした。
「仮に千葉くんの説が正しいとして、対策はあるのかな?」
航太は怪訝そうにしながらも、詮索せずに返した。
「まだ具体的にどうしたらいいかは分かりませんね。ですが、幽霊が
「管理部では幽霊の居場所、突き止められたの?」
「いえ、リアルタイムでは追えていないそうです。幽霊対策班を作って、検索に長けた精鋭で調査をしているとは言いますが、なかなか難しいようで」
「そうか。でも、大きくなってるんだったよな? それなら痕跡もはっきりするんじゃないか?」
「まだ結合している記憶が多いので、その分だけノイズになっているんですよ。正確な情報をつかむには、分離作業を進めていくしかありません」
「あー、そういうことか」
深瀬さんが顔をしかめてため息をつく。
アカシックレコードの状態を元に戻さなければ、記憶情報を検索できない。検索できなければ、幽霊の居場所を突き止められない。
「一応、僕と楓で作成した精密検索システムを使用していますが、現在の状況では……」
「ん? 今、なんて言った?」
「現在の状況では?」
「いや、その前」
「精密検索システム、ですか?」
「千葉くんが作ったの?」
「楓もです」
深瀬さんがこちらを見て、思わず視線が合う。
恥ずかしくなったオレは席を立ち、背を向けるようにソファへ座り込んだ。
「田村くん、そんなことできたのか」
「彼の得意分野ですよ。僕では足元にもおよびません」
航太がどんな顔をしているか、見なくても分かる。絶対ににっこりと笑っているはずだ。
すると、報告書を作成し終えた寺石がオレの方へ来た。
「田村先輩、褒められてますよ! すげーじゃないすか!」
「すごくねぇよ」
とっさに苦い顔を作るオレだが、寺石には効かなかった。
「恥ずかしがってます? 先輩、可愛いー!」
「お前まで可愛いとか言うなっ」
親しさ故の言動なのは分かるが、年下に可愛いと言われるのは困る。いや、年上から言われても嫌だし、航太に言われるのもまだ恥ずかしいけれど。
寺石は楽しそうに笑っているばかりで、こちらを見ていたらしい深瀬さんが言う。
「まあ、いいや。ありがとう、千葉くん」
「いえ、一緒に考えてくれるのは深瀬さんくらいですから」
「そうだね。俺も幽霊のことは気になるし、教えてもらえてありがたいよ」
「はい。では、また」
と、航太が自分の席へと戻り、オレは助けを求めようかどうか迷った。
「っていうか先輩、聞いてくださいよ。実はさっき……」
「ちょっ、勝手に隣に座んな」
「えー、いいじゃないですか。それより聞いてくださいってば」
航太の背中を見るが、振り向く様子は
くっついてくる寺石に抵抗していると、深瀬さんが廊下へ出ていくのが見えた。その手にはデバイスが握られており、どうやら誰かに連絡するつもりのようだった。