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第129話 どんな顔をしていたら

 先週同様、航太のゲームに付き合わされた後だった。

 デバイスを棚へ置きながら航太が言った。

「昨日の深瀬さん、ちょっと変だったよな」

「ああ、航太も気づいてたんだな。オレもそう思った」

 横目に彼を見つつ、オレもデバイスを脇へ置いてベッドに寝転がる。

「話をした後、デバイス持って出てったもんな」

 航太はわずかに目を丸くした。

「そこまでは見てなかったな。誰かに連絡しに行ったのか?」

「そうとしか思えないだろ」

 と、オレが返すと航太も体を横にする。

「何か知ってそうだよな、深瀬さん」

「心当たりがあるのかもな」

「幽霊にか? それとも、虚構の住人たちがネガティブになってしまう現象に?」

 寝返りを打ち、近い距離で顔を合わせる。

「航太の仮説では、幽霊が感情を吸い取ってるんだろ?」

「そう考えているが、まだ確証はない」

「深瀬さんに心当たりがあるとして、感情を吸い取る幽霊を知ってんじゃねぇか?」

「まさか」

「もちろん、航太の仮説がまるきり外れてて、深瀬さんには別の考えがあるって可能性もある」

「うーん、どっちなんだろうな。また日南さんに聞いてみようか」

 航太の口から嫌な名前が出て、オレはむすっとする。

 察した航太が困ったように笑った。

「すまない。だけど、彼は今、管理部にいるからどうしてもな」

「それは分かるけど……」

 結局、航太の好奇心を満たすのはいつも日南だ。

「楓が何を考えてるか、推理しようか?」

「え、急に何だよ」

 少々びっくりするオレにかまわず、航太はにこりと笑う。

「僕とキスがしたいと思っている」

「思ってねぇよ」

 すかさず否定すれば、航太がおかしそうにくすくすと笑う。

「ごまかすな」

 と、オレが不機嫌をあらわにして背を向けると、航太は笑うのをやめて真面目な声で言った。

「すまないな。でも、楓と日南さんの話をする時、どんな顔をしていたらいいか分からない」

 それはオレだって同じだ。航太にとってあいつは友達で、オレにとっては二度と関わることのない相手。

「楓が嫌なら、もう彼の話はしないようにするよ」

 こんな時ですら航太は優しさを発揮する。それがまた、オレの自己嫌悪を刺激する。

 泣きたいような怒りたいような気持ちをこらえてオレは言う。

「別にいいよ、話しても。その度にオレの心はぐちゃぐちゃになって、ごまかすために脳が不快感を示すけど」

 少しの間、沈黙した。二人きりでいるのにこんな空気になるのは初めてだ。

 航太は何も言わずにオレを後ろから抱きしめた。

「ごめん。傷つけたいわけじゃないんだ」

「分かってる」

「……ごめん」

 航太の吐息を間近に感じ、オレはまぶたを閉じた。

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