先週同様、航太のゲームに付き合わされた後だった。
デバイスを棚へ置きながら航太が言った。
「昨日の深瀬さん、ちょっと変だったよな」
「ああ、航太も気づいてたんだな。オレもそう思った」
横目に彼を見つつ、オレもデバイスを脇へ置いてベッドに寝転がる。
「話をした後、デバイス持って出てったもんな」
航太はわずかに目を丸くした。
「そこまでは見てなかったな。誰かに連絡しに行ったのか?」
「そうとしか思えないだろ」
と、オレが返すと航太も体を横にする。
「何か知ってそうだよな、深瀬さん」
「心当たりがあるのかもな」
「幽霊にか? それとも、虚構の住人たちがネガティブになってしまう現象に?」
寝返りを打ち、近い距離で顔を合わせる。
「航太の仮説では、幽霊が感情を吸い取ってるんだろ?」
「そう考えているが、まだ確証はない」
「深瀬さんに心当たりがあるとして、感情を吸い取る幽霊を知ってんじゃねぇか?」
「まさか」
「もちろん、航太の仮説がまるきり外れてて、深瀬さんには別の考えがあるって可能性もある」
「うーん、どっちなんだろうな。また日南さんに聞いてみようか」
航太の口から嫌な名前が出て、オレはむすっとする。
察した航太が困ったように笑った。
「すまない。だけど、彼は今、管理部にいるからどうしてもな」
「それは分かるけど……」
結局、航太の好奇心を満たすのはいつも日南だ。
「楓が何を考えてるか、推理しようか?」
「え、急に何だよ」
少々びっくりするオレにかまわず、航太はにこりと笑う。
「僕とキスがしたいと思っている」
「思ってねぇよ」
すかさず否定すれば、航太がおかしそうにくすくすと笑う。
「ごまかすな」
と、オレが不機嫌をあらわにして背を向けると、航太は笑うのをやめて真面目な声で言った。
「すまないな。でも、楓と日南さんの話をする時、どんな顔をしていたらいいか分からない」
それはオレだって同じだ。航太にとってあいつは友達で、オレにとっては二度と関わることのない相手。
「楓が嫌なら、もう彼の話はしないようにするよ」
こんな時ですら航太は優しさを発揮する。それがまた、オレの自己嫌悪を刺激する。
泣きたいような怒りたいような気持ちをこらえてオレは言う。
「別にいいよ、話しても。その度にオレの心はぐちゃぐちゃになって、ごまかすために脳が不快感を示すけど」
少しの間、沈黙した。二人きりでいるのにこんな空気になるのは初めてだ。
航太は何も言わずにオレを後ろから抱きしめた。
「ごめん。傷つけたいわけじゃないんだ」
「分かってる」
「……ごめん」
航太の吐息を間近に感じ、オレはまぶたを閉じた。