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第5話 空も飛べるハズ♪(飛べませんっ!)

 こんにちは、金城玉緒です。


 好きな食べ物は女子高生、嫌いな食べ物はレバニラの天才私立探偵です。


 今ワケあって異世界です。


 そして――




「落ちる、落ちる、落ちる嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 そして――これまたワケあってパラシュート無しの紐無しのスカイダイビングの真っ最中です。




「あのエセ魔法使い、今度会ったらぶん殴ってやるからなぁぁぁぁぁっ!?」




 怒声と共に物凄い勢いで落下していく俺の身体。


 はい、落ちています。


 落下。


 墜落。


 フォーリンダウン。


 んで、ここは空。


 おそらく上空ウン千メートル。


 意味分かんないでしょ?


 俺もだ♪


 ついさっきまでリバース・ロンドン王国魔法女子学院の中庭でプリンセスと優雅に朝食をほむほむしていたハズなのに、気づいたらお空の上っていうね。




 ……Why?ナゼ




「ふざけんな!? 普通空から落ちて来るのは美少女と相場が決まってるハズだろ!? なんでオッサンが落下してんだよ? 意味分かんねぇ!?」

「死ぬ一歩手前だというのに元気ですね、勇者様?」

「その声は!?」




 俺の真横から鈴の音を転がしたような声が耳朶を震わせた。


 この凛々しい声には聞き覚えがある。


 俺は『親方、空から女の子が!?』と無駄口を叩くことなく、俺と同じく自由落下中のカエル族のお姫様の方を見て歓喜の声をあげた。




「アリアさん! よかった、助かった!」

「全然よくありません。最悪です。おそらくあと5分もしない内にワタクシ達は地面に叩きつけられて死にます」

「いやぁぁぁぁ!? 助かってなかったぁぁぁぁぁ!?」




 銀色の髪を風に靡かせながら、頬をぴくぴくッ!? 痙攣させるお姫様。




「というか、何で俺達お空の上に居るワケ!? わけワカメなんですけど!?」

「ヘビ族の長、アルシエルの魔法のせいです。彼が転移魔法でワタクシたちを上空ン千メートルへと放り出したのです」

「やっぱアイツのせいか!?」




 俺の脳裏に軽薄な笑みを浮かべる赤髪のクソ野郎の姿が浮かび上がる。


 あのエセ魔法使いめ!


 今度会ったら俺の魔法で上野駅13番ホームのトイレに全裸で放り込んでやる! 


 もちろんお尻には油性マジックで『おとこ、大歓ゲイッ!』と書いた上でな!


 ……って、うん?


 俺の魔法……?




「あっ、そうだ! こんな時こそ俺の1日1回限定のチート魔法の出番じゃん!」

「その1回限りのチート魔法も、今朝の勇者様のキノコ脱走事件で使っちゃいましたけどね」

「なにやってんだ、俺はっ!?」




 数時間前の自分をぶん殴りたいと本気で思ったのは、生まれて初めてだ。


 何故俺は今日に限ってあんな愚かな行いをしてしまったんだ!?


 後悔している間にも、ぐんぐんと地上が目の前まで迫って来る。


 ヤバイ、ヤバい!?


 死ぬ!?


 マジで死ぬ!?




「お、落ち着け俺ぇ~。そうだ、落ち着け。まずは落ち着くんだ。落ち着いて……飛行石を探すんだ!」

「落ち着いてください勇者様? トチ狂っている場合ではありませんよ?」

「アリアさんもツッコんでいる場合じゃないぞ! 早く俺と一緒に飛行石を探すんだ!」




 ハリーアップ! と叫ぶ俺に向かって、アリアさんがどこからともなく杖を取り出した。




「とりあえず高度が100を切ったタイミングで飛行魔法を使います。それでも落下エネルギーの方が強いので、地面には衝突するでしょうが、幾分いくぶんか衝撃を和らげることが出来るハズです」

「高度が100のタイミングでって……そんなギリギリのタイミングで使わなくても、今使えばよくない?」

「本来、飛行魔法は人体を5メートルほど浮かすのが限界の魔法なんですよ。ソレをワタクシの全魔力を注いで無理やり領域を拡張して使用できる限界高度が100メートルなんです」

「難しい話は分かんないけど、高度100メートルがアリアさんの魔法が使える限界高度ってこと?」




 その通りです、とアリアさんは頷きながらグングンッ! と迫って来る地面を見つめてこう言った。




「たださっきも言った通り全魔力を注ぐので、しばらくの間は魔法を使うことが出来なくなります」

「しょうがねぇよ、背に腹は代えらんねぇ! 頼む、アリアさん!」

「了解しました」




 アリアさんはスゥと大きく呼吸をすると、そのドレスに包まれた豊かな胸元が大きく上下した。


 それと同時に彼女の身体から青白い炎のようなオーラが発散され始めて……アレが魔力なのだろうか?


 キラキラ輝いていて、ちょっと綺麗だった。


 とか見惚れている場合じゃない!


 俺は迫り来る城下町の景色を目に焼き付けながら、




「アリアさん、あそこ! あの深そうな川が流れている場所! アソコに着水できない!?」

「あの川ですね? 了解です……よしっ! 準備完了っ! ワタクシの身体にくっついてください、勇者様」

「了解。カモンッ!」




 流石に空中では身動きが取れないという事もあり、苦渋の決断で俺達の間で使用禁止と化している【例のワード】を口にした。


 その瞬間、アリアさんの豊満なワガママボディーが俺の身体めがけて吸い込まれるように飛んできた。


 そのまま彼女を背後から両手でキャッチし、



 ――むにゅんっ♪



 と素晴らしい感触が俺の指先を襲った。


 うん、なんだ?


 この最高に触り心地のイイ物体は?




「ちょっ!? どこ触ってるんですか、勇者様!? この変態!?」

「えっ、なに!? 俺今ナニを触ってるの!? 怖いっ!?」




 後ろからでもハッキリと分かるほど耳朶じだを真っ赤に染めたアリアさんが、俺を批難してくる。


 が少しでも力を緩めると彼女と引き剥がされそうになるため、俺は構わず彼女を掴む手に力を込めた。


 刹那、アリアさんが烈火の如く怒りだした。




「す、スケベッ! ドスケベッ! ド変態ッ!? このセクハラ大魔神!」

「待って!? 俺はどこを触ってるの!? 分からない、怖いっ!? 教えて!?」

「れ、レディーになんて事を言わせようとするんですか!? このセクハラ勇者め!」

「あっ、分かった! この感触……おっぱいだ! コレ、アリアさんのおっぱいでしょ!?」

「離れろ、このスケベ大魔王が!?」




 ファイナルアンサーでしょ? と俺がたった1つの真実を見抜くと、ジタバタと腕の中でアリアさんが暴れはじめた。


 コラッ、暴れるな!?


 たかが乳を揉まれた程度で暴れるな、生娘じゃないんだから! ……いや生娘だったわ、ごめん。


 なんて言い合いをしている内に、高度は100メートルを切ろうとしていた。


 もう言い争っている時間も余裕もない。




「アリアさんっ!」

「~~~~ッ! この落とし前は必ずつけますからね!?」




 カタギとは思えないプレッシャーを体中から発散させながら、アリアさんは「飛行魔法フライ・フライッ!」と叫んだ。


 瞬間、下から押し上げられるような力が身体中を包み、落下のスピードが落ちる。


 それと同時に、




 ――どっぼーん!




 と盛大な水飛沫をあげながら、俺達は川の中へ着水した。


 ……若干身体が痛いが、ケガはないっぽい。




「とか言っている場合じゃねぇ!? 俺、泳げない!? 泳げないよ!? 誰か助けて、死ぬ!?」

「掴まってください、勇者様っ!」




 パシッ! と半ベソをかいていた俺の手をアリアさんの柔らかい手が握って来る。


 そのまま俺の身体を引っ張って岸へとスイスイ泳いでいった。




「プハッ!? あ、ありがとうアリアさん……好き♪ 抱いて?」

「手ぇ離しますよ?」

「すいません、自分調子に乗りました。ごめんなさい……」

「分かればいいんです、分かれば」




 冷ややかな川の水とアリアさんの視線から逃げるように岸へと上がる俺。


 そのまま岩の上でゴロンっ! と寝転がり、仰向けで倒れた。




「ハァ、ハァ……死ぬかと思った」

「右に同じく」

「というかアリアさん、泳ぎ上手くない? なんで?」

「カエル族の女は魔法と水に関わるモノなら何でも得意なんですよ」

「なるほど。つまりアリアさんは水商売の女なんだね?」

「……それ意味違いますからね? 次言ったらその舌、引き千切りますよ?」




 笑顔で静かに威嚇してくるお姫様。


 日に日に俺への対応が雑になっている気がしてならない、今日この頃です。




「ところで、話は変わるんだけどさ?」

「はい、何ですか?」

「……ここ、どこよ?」




 身体をグッ! と起こすと、目の前には一級河川を彷彿とさせるデカい川に、レインボーブリッジを連想させる立派なデカい橋が広がっていた。


 こんな川も橋もリバース・ロンドン王国にはなかったハズだ。


 どこよ、ここ?


 あの世?


 なんて思っていると、アリアさんが「勇者様」と俺の名前を呼んだ。




「今からワタクシの言うことを落ち着いて聞いてください」

「はい、なんでしょうか?」

「ここはワタクシ達が居たリバース・ロンドン王国ではありません」

「それはまぁ、見れば分かります」




 と軽口を叩く俺を前で、アリアさんの額に一筋の冷や汗が流れ落ちた。


 彼女の顔は自家発電現場をママンに踏み込まれた男子中学生のように絶望に染まっていて……うん?


 なんでそんな顔をするのん?




「アリアさん? どうしたの? そんな青い顔をして?」




 もしかして『あの日』かい? 始まったのかい? と言えるような懐のふけぇ男になりてぇな……。


 と感慨にふける俺様を前に、アリアさんは神妙な面持ちで口をひらいた。




「おそらくここは敵地のど真ん中です」

「敵地のど真ん中? というと?」

「つまりですね?」




 アリアさんは実に言いにくそうに、今一番知りたくない情報を俺にプレゼントしてきた。




「――ここはパリス・パーリ帝国の中心部です」




 震える唇でそう口にする彼女を前に、俺は思った。


 あのエセ魔法使い、やりやがったな!? ……と。

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