二人は布団の中で眠っていた――はずだった。
けれど、突然。
「うああああああっ!!」
湊音が叫び声を上げて飛び起きる。肩で激しく息をしている。汗が額ににじみ、目は虚ろだ。
「ミナくん……」
驚きながらも、李仁はそっと彼の背中を撫でた。震えている。
「学校……行かなきゃ……」
「大丈夫。代わりの先生がちゃんといるわ」
李仁の言葉に、湊音はかぶりを振る。
「剣道場……開けなきゃ、ダメなんだよ……」
そう呟く声は必死で、どこか取り乱している。――きっと、教職をしていた頃の夢を見たのだろう。責任感の強さが、まだ心の奥に深く残っている。
やがて、一時間ほど経って、ようやく落ち着いた湊音が再び眠りに落ちたのを確認してから、李仁は静かに身を起こし、机の引き出しから日記帳を取り出した。
――今夜は久しぶりに、ミナくんがうなされた。
――やっぱり、完全には癒えてない。
そう書き記し、李仁はため息をつく。
「ミナくん……」
呟きながら、ふと手元を見る。湊音の細い首筋が脳裏に浮かぶ。
気づけば、その首に――自分の手が伸びていた。
静かに、強く、締めるように。両手の指が重なり合い、皮膚の感触がリアルに蘇る。
「ああああっ!!」
李仁の悲鳴が夜を裂いた。
目を見開き、全身から汗が吹き出す。息は荒れ、手が震えて止まらない。
「……夢?」
必死に自分の手を見る。まだ絞めていた感覚が残っている――怖いほどにはっきりと。
慌てて隣を見ると、湊音は静かに、穏やかに眠っていた。まるで、何も知らない子どものように。
「……よかった。起きないくらい、ちゃんと眠れるようになったのね、ミナくん……」
安堵と同時に、李仁の頬に涙がにじむ。こんな夢を見てしまった自分に、胸が押しつぶされそうだ。
震える指先で、そっと湊音の頭を撫でる。
「シャワー……浴びてこよう」
声にならない声でそう呟き、李仁はふらつく足で浴室へと向かった。