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第60話 線香花火

 8月も終わり。


 李仁と湊音は住むマンションの近くの公園で花火をした。と言っても派手なモノや音が大きいものはできないため線香花火で我慢することに。


「前よりも厳しくなっちゃったわね、前はプシューってやつオッケーだったのに」


「だよなぁ。てか去年李仁が『いやん怖いーっ』て甲高い声で叫び回ってたからじゃないの」


「それが原因? 最近は控え気味なのにぃ」


 と相変わらずな李仁に対して笑う湊音。


 線香花火を大量に買い込んで何度も楽しむ二人。


「飽きが来ないのよね、何でだろ」


「……長く続くのもあればあっという間に終わるやつもある」


「ミナくんみたい、調子や良い時は長ーくだけど、そうじゃない時はすぐイッちゃう」


「し、知るかよ!」


 揶揄われる湊音はポトン、と落ちた火種を踏み潰して次の花火に。

 周りは煙臭いがその臭いは悪くないと思う二人。


「あ、すっごい……この子めっちゃくちゃ長生き」


 勢いは弱いが長くパチパチと火花を散らす李仁の握っている線香花火。


「そうだね。あ、落ちた」


「……あーあ」


 二人は隣同士に座り、見つめ合う。暗い中、キスをする。ふふっと笑う李仁に湊音は照れる。


「来年は時代村で大きな花火、見に行きたいな」


「そうね、大きな花火。その頃にはミナくんも少しは元気になってるかしら」

 湊音は俯く。少しまた薬を強めにしてもらったらしい。不安定さが増し、カウンセリングにも時間が掛かるようになった。


「……」


「無理しなくていいから」


「李仁も無理してないか?」


「大丈夫よ。まずはミナくんの捻挫した手首が良くなってから次のこと考えて。わたしは大丈夫」


 李仁は残った花火を袋に入れてバケツを持った。もう帰るようだ。


「また明日、線香花火やろう」


「そうね。今月はずっと雨だったし。この花火も消化しないともったいない」


「だね」


 李仁の背中にピッタリと湊音はくっつく。


「ミナくん」


「うん、行くよ……」


 離れる湊音。


「……」


 湊音は立ち尽くす。李仁は寂しげな彼の表情を見ると辛くなる。

 自分ではどうしようもない彼の苦しみをどう救ってあげればいいのかと。

 本当はこのまま抱きしめて手を繋げばいいものの、李仁はそれはダメだと心の中で思う。


「……ミナくん、ついておいで」


「うん」


 さっきまで線香花火で楽しんでいたはずなのに。李仁には何もできなくなるほど湊音の病状は悪化していたのであった。

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