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第45話

虹彩認証と指紋認証のふたつをクリアした。


自動ドアが音もなく開いていく。


開口部が開いた瞬間、中にいる人数を知覚する。その者たちに対して、前もって濡らしておいた指先の飛沫を投じた。


指先を濡らしていたのはただの水道水である。


しかし、この何の変哲もない水道水が、俺にとってはお手軽な武器となるのだ。


水道水には消毒のための塩素と、浄水時に使用される薬品から極微量のアルミニウムが含まれている。もちろん、共に飲用しても人体に影響がない程度の量だが、これにサイコキネシスによる超振動を加えることで、目に見えない投射武器として利用できた。


便宜上、この攻撃法をスウェットショットと呼んでいる。


いや、特に攻撃する時に叫ぶわけではない。


そんな厨二心もなければ、言葉を発することで周囲に自分の存在をアピールするような愚を犯す気もなかった。


あくまで自分の中で能力の整理を行うための名称である。


何?


スウェットショットを直訳したらダサダサだって?


だから、俺の中での整理用の名称だといったろう。いちいちツッコミを入れないように。


え?


水道水だからスウェットじゃないって?


⋯細かいこと言ってるとモテないぞ。


因みに、このスウェットショットに使う念力は極微量かつコンマ何秒かの瞬間的なもののため、センサーなどでは感知されにくいのも確認済みだ。何らかの異常値は出るかもしれないが、それに対しての詳細は認識できないだろう。


さて、音もなく崩れていく施設職員たちを尻目に奥へと入っていく。


命を奪うほど強力ではない。


デコピンの2倍ほどの威力だろうか。


デコピンの強さは指の硬さや質量、速度に比例しているそうだ。指の硬さや質量なんかは人によって値が違う。


速度に関していえば25〜50km/hと個人差があるそうだが、俺のスウェットショットはその3倍の速度は出ている。硬さや質量の詳細はわからないが、人が気絶するためそのくらいではないかと推測しているだけだが。


うん、そこもあまり突っ込んではいけない。


全員の意識を奪ったかをしっかりと確認してから、備品を使って開口部にバリケードを敷いた。もちろん手で移動させたのではなく、能力を使用して迅速に行ったのはいうまでもない。この程度なら、センサーの異常値で済む誤差だろう。


最奥のデスクに向かい、そこで突っ伏している初老の男を床に仰向けに倒して額と側頭部に手を添えた。


この男は研究チームの一部を率いているマネジャーの一人である。


精神の分析や解析、測定などを行うサイコメトリー。


この能力は漫画や小説などでよく題材にされ、数多くのメディア化作品を生んでいる。


使える状況や条件は様々だが、俺の場合は直接対象者の脳に近い部分を触らなければ発動しない。


ただ、脳に近ければどこでも良いというわけではなかった。





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