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第46話

脳に記録されている情報は大きく二分される。新しい記憶は海馬と呼ばれる部分、古い記憶は大脳皮質で長期間記憶されるのだ。


まあ、諸説あるのだが、俺の場合は海馬に近い側頭部と額から広がっている大脳皮質のかかる額部分に触れることで、相手の記憶を信号化して自身の脳へと伝達することができた。


はっきりいうが、そんな感じだと認識しているだけだ。


詳しいメカニズムを知りたいとは思うが、そのためには自らの能力詳細を開示して被検体にならなければならない。それでも科学的に立証される可能性は低く、場合によってはモルモットのように扱われるだろう。


そんなことなら最初から能力を隠蔽しておく方が、少しでも平穏な日々を送れることは馬鹿でもわかることである。


超能力を使えるということは、絶滅危惧種以上の希少種だということだ。学者などに好き勝手されれば、否応なく絶滅種の仲間入りを果たすかもしれない。


因みに、絶滅危惧種はスイスに本部を置く国際自然保護連合IUCNでレッドリストが作成され、9つのカテゴリーでランク分けされている。


実は超能力の分野でも能力者は同じようなランクで定められており、俺の本来の能力はその最上位のExtinct(EX)やExtinct in the Wild(EW)にあたるようだ。EXやEWは最後の1個体が既に死滅している、もしくは野生では存在しない保護動物を指す。生物としてならともかく、人間としては名誉とも何とも思わない。むしろ個人を希少種として定めるなど、不自由な生活を強いられることでしかない。


ひとつ言えるのは、この能力者のランク付けは有用性を示すものだということだ。


俺が人智を超えた恐ろしい能力を有しているわけではない。些細なものでも人──というより、国家などにとって高い価値を見出せる能力を持っているということである。だからこそ、真の能力はひた隠しにしてきたのだ。


「!?」


男の記憶領域を探り、その深淵にまで到達した。


驚くべき事実がそこには存在し、新たな知識として吸収する。


俺はこの施設に収容されている者たちが、月影英二郎のようなマッドサイエンティストに脳を弄くり回された者ばかりだと思っていた。


自らの思い込みの激しさにイラだちをおぼえる。


いや、それ自体は間違いではない。


半数近くはやはりそういった元患者である。


しかし、それ以外はどうかとなると、実は違う経緯の者も多数存在したのだ。むしろ、そちらの方が多いことに驚かされた。





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