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第3話

 蓮の住む1SLDKのアパートの間取りは入り口に入ると廊下に浴室やトイレ、寝室があり、一番奥にリビングがある。

 ドア越しといえ、寝室から電話の声は聞こえるようで。


『えぇ。そんなこと言わないでよ』


 サキは廊下側から寝室の扉に耳をつけて電話する蓮の話を盗み聞きしていた。

 ……私は一体何をしているのでしょう。

 そんな疑問や罪悪感を抱くも、サキは気になりやめることができなかった。


 事の発端は10分ほど前になる。 

 いつも通り掃除洗濯をしている真っ最中のことだった。

 掃除をしている時、テーブルに置かれた蓮のバイブ音が鳴った。どうやら電話がかかってきたらしく、スマホの画面に「玲奈」と表示がされていた。

 蓮は慌ててスマホを隠すように受け取ると、サキに断りを入れて寝室に移動した。

 そのおかしな言動にサキは胸がモヤモヤしていた。


 気がつけばサキは扉に頭をつけて耳を澄ませていた。


『可愛いんだから、絶対大丈夫!何なら俺の家来てもいいし。1人だからって心細く感じることはないよ』


 蓮が異性と楽しそうに電話している。


『あはは。可愛いやつめ』


 蓮の電話が始まり10分ほど。

 サキも蓮の電話がかかってきた時「気にせず会話をしてください」と言った。

 だが、玲奈という名前が気になり過ぎて盗み聞きしてしまった。その内容が友人に発する言葉とは思えず、恋人にするような内容。


「……なんかムカつきます」


 胸に何かが突っかかっている感覚にイラつく。

 別に蓮に恋人がいてもいなくても自分には関係ないはず。

 自分と話す時より楽しそうに会話をしている。それが異性ならばよりイラつく。

 いや、初対面でゴミを見る目で変態と罵ったし、普段童貞と揶揄っている手前そうなるのは必然か?

 そんなことを思っているが、ため息をして頭を切り替え家事に戻ったのだった。 



「……妹さんですか?」

「そうだけど……なんでそんなに驚いてるの?」


 電話を終えた蓮は戻ったのは夕食の準備が終わった後だった。

 料理を並べて、二人で食べている時にサキはなんとなく聞いてみたのだった。


 予想外の発言にサキはキョトンとして顔を上げる。

 蓮の話によれば、玲奈は現在中学3年生。

 来年受験が控えていて、進学を機に蓮と同じ高校にしようか悩んでいるということだった。 

 ただ、1人親元を離れるのが心配でどうしようか心配していたとのこと。

 そこで、蓮に電話で相談していたそうだ。


「……ドア越しに声漏れてましたけど。妹に愛してるとかシスコンですね」

「ちょ、違うから。家族のスキンシップとか、ふざけてただけだから!」

「妹だけには手を出さないでくださいね。法律的に」

「だから、違うって!ただ妹を溺愛している良い兄というだけ!」

「そこは誇るべき点ではないかと」


 誇るように言った蓮にサキは呆れる。

 サキは蓮と話して胸のつっかえがなくなりスッキリしたのだった。








「どうしたのサキ?良いことでもあった?」

「……一条先輩?」


 派遣の仕事を終えて帰ったサキは屋敷の更衣室で声をかけられていた。

 一条はボーイッシュな印象を持つ黒髪短髪の職場の先輩。


「最近ムスッとした顔で帰ってきたのに、今日はアンタはどこか柔らかいのだもの」


 ニマニマした口元を片手で隠しながら一条は言う。

 そう、指摘されてサキは自分の口元を触り少しだけに頬が上がっているのを確認した。

 口角が上がっていて、どうやら少しだけニヤけていたらしい。

 自覚したらサキは取り繕うのは早い。


「そんなことはありません」

「いや、ニヤけ隠せてないし……。それどころ声弾んでるじゃない。何?やっとお堅いサキに春が来たの?」

「そんなんじゃありません。職務が終わったので失礼します」


 揶揄うのは好きなサキだが、やられるのは好きではない。サキは淡々といなすとその場を去るのだった。

 一条は身内のそう言った話をするのが好きだ。このまま話を続けると変な誤解を招かれるし、少々面倒な気がした。

 サキはその場を逃げるように退散したのだった。




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