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第4話

「……ご主人様が勉強を」

「なんでそんなに驚いているの?」


 サキは掃除の最中、リビングで蓮が教科書と問題集を広げていたので、不思議そうに声をかけた。


「ああ、おじい様から学校では定期的に学力の現状把握をする機会があると聞いたことがあります。なるほど。再試の対策をされていたのですね」

「……まだ試験すら受けてないんだけど。……てか、俺こう見えて優秀だから」

「……え?」

「本当だから!こう見えて50位以内に毎回入ってるから!」

「50人中?」

「387人中!」


 サキの眉をひそめていた。信じていないなと思った蓮は前回の中間考査の結果を渡す。

 サキは渡された濃緑色の厚紙の内容を見ると、目を見開く。


「……本当なんですね」

「メイドさんは俺をなんだと思っているんだか」

「……ここまで一科目ごとに詳細な順位を」

「驚くところそこ?あまり見られると恥ずかしいから返して」


 蓮の思っていた反応と違った。サキは興味津々な態度に蓮は恥ずかしくなり、早く返してと手を差し出す。サキはハッとして蓮に返した。


「あ……失礼しました」

「成績表一つでここまで反応するなんて。海外の学校だと試験結果どんな感じなの?」

「……私、ホームスクーリングでだったんです」

「え?ほーむすくーりんぐ?」

「……学校に通わずに家で勉強することですね」

「ふーん、そんなことあるんだ。……もしかして変な質問しちゃったり」

「いえ。深い事情とかはないですし」

「そ、そうなんだ」


 蓮は少しぎこちない。

 サキは全く気にせず口にしたが、確かに事情を知らない人からすると何か触れちゃまずい家庭事情があるかも知れないと思い浮かぶ可能性もある。

 そう考えたサキはフフンと、得意げな笑みを浮かべる。


「私は優秀すぎるので学校へ行かなくても平気なんですよ。それにお父様に早く恩を返したいと考えた故の行動ですから」

「あはは、なるほどね」


 蓮はサキの反応に呆れていた。


「両親は私が物心つく前に他界してしまいまして、おじい様に引き取られたんです。私は賢かったのでしょう。なんとなくその事実、自分の立ち位置を理解していたので」

「確かに物心ついた頃なら賢いかも。……自画自賛だね」

「ええ、私は優秀でしたから」


 サキは話が少し脱線してしまったと思い話を戻す。


「私はおじい様に少しでも早く恩を返したかった。だから、学校へ通わずにメイドとして働くことを優先したのです。それがおじい様への恩返しにつながると考えて」

「え?じいさんは反対しなかったの?」

「もちろん反対しましたよ。それでもわがままを通したんです。そうしたら、大学受験レベルの試験で8割以上取れば良いと条件を出されまして」

「まさか、メイドさんはそれを」

「ええ、軽く跳ね返しました」

「ほ、本当に優秀だね」


 サキが事情を話し終えた。蓮はサキの優秀さを改めて知り驚いたのだった。


「私にとっておじい様の言葉は絶対です。例え、火の中水の中。メイド雑誌を集める変態の元でも、私に変なプレイを強要しようとする犯罪予備軍の元へでもーー」

「ちょっと待って!最後のおかしいから!」

「つまり、変態は認めると?」

「それも違う!」


 蓮は椅子から立ち上がり、慌てて否定する。その姿にクスクスと笑うとサキは蓮の学校生活に興味を持った。


「あ、そうです。よろしければ賊と欲にまみれたご主人様の学校生活を教えてくれませんか?」

「どこの世紀末?学校そんな荒れてないから。世間一般の学校!」

「え?!」

「なんで驚くの!」


 サキが蓮の話の中で茶々を入れたり、それに蓮が突っ込んで笑ったり。

 サキは全ての話が新鮮で、聞くうちにどんどん話に夢中になったのだった。







「どうしたのサキ?良いことでもあった?」

「……一条先輩?」


 派遣の仕事を終えて帰宅したサキは屋敷の更衣室で声をかけられていた。

 一条はボーイッシュな印象を持つ黒髪短髪の職場の先輩だ。


「初めはムスッとした顔で帰ってきてたのに、最近のアンタはどこか嬉しそうで」


 そう、指摘されてサキは自分の口元を触り少しだけに頬が上がっているのを確認した。

 自覚したサキはすぐに取り繕う。


「そんなことはありません」

「ええ、声弾んでるじゃない。何?やっとお堅いサキに春が来たの?」

「そんなんじゃありません。終わったので失礼します」


 揶揄うのは好きなサキだが、やられるのは好きではない。サキは淡々と一条をいなすとその場を立ち去るのだった。

 一条と話を続けると少々面倒な気がした。

 サキはその場を逃げるように退散したのだった。


 だが、足取りは軽くサキの胸はポカポカと温かく、心地がよかった。。まるでパズルのピースが徐々にハマっていく、そんな気持ちい感覚だった。


 そんな一月で変わりつつあるサキの話は主人である流水の元へも届いていた。


「一月でここまで変わるとはの……こじつけではあったが、少年とサキを会わせて正解じゃったわい」


 深夜の執務室で1人、流水は安堵の笑みを浮かべていた。

 実はサキと蓮が再会したのは流水が遠回りしに手を回したからである。

 一月前、流水は蓮の居場所を突き止めて急ぎ接触を図ったのだ。





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