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第7話

 蓮はサキへのやり返しのため、流水の屋敷を訪ねた。


「どう思う?!ひどすぎない?」

「ほら、茶でも飲まんかい」

「......どうも」


 少々興奮気味の蓮は前乗りの体勢で話していたので、落ち着かせるために流水はお茶を飲むように促す。蓮は姿勢を整えた。


「まぁ。きついよのぉ。性癖を知られ......弄ばれて」

「じいさんが悪いんじゃん。何がお家メイドプレイだよ。詐欺だね詐欺!初対面で汚物を見る目で見られたんだけど!その気持ちわかる?」

「でも、少し嬉しかったりしたんじゃな」 「そ......そんなことないよ」

「お主分かりやすいのぉ。目が泳ぎ過ぎじゃ」 「そんなことないよ!とにかく!じいさんが悪い!これ絶対!」

「声がでかいぞい。静かにせい。......まぁ、確かにワシが悪かったのは認めるわい。すまんかったなぁ」


 本当に反省しているのかこのじいさん。出かかった本音をどうにか抑える蓮。

 流水は腕を組みどうしたものかと悩む。


「では、他のメイドにするかの?」

「いや、それダメってじいさんが言ったんじゃん」

「言い出した者としてここまで不満を言われるとのぉ。申し訳なくなったんじゃ」


 蓮は流水の提案を断った。蓮自身、サキは嫌いじゃない。

 人目を引く容姿もさながら、努力家なところ。揶揄われるが自分のために尽くしてくれているのは知っている。


「いや、別にいいかな。毎日のご飯美味しいし、掃除とか洗濯とか全部やってくれてるのは助かってるんだよ」

「満足しておるんじゃな。では何故ここに来たのじゃ?」

「揶揄われ続けるのは嫌だから、何かやり返したいの!」

「何か仕掛ければ良いのでは?」

「何か仕掛けようとしたら睨まれるんだよ」

「小心者じゃのぉ」

「怖いの!あの万能メイドさんの戦闘力半端ないんだから!」


 呆れた顔でいう流水に蓮は少しキレ気味に言う。


「それに、俺はじいさんのご厚意でメイドさんを派遣してもらってる訳だし」

「うんうん」

「至れり尽くせりで、俺はしてもらってるだけで何も返してない。でも、いつもやられっぱなしでやり返したいし。……ああ、もうわからなくなってきた」

「ふむ、何がいいかのぉ」


 サキは有能すぎる。ここまでしてくれているのは正直嬉しいと思う蓮。

 でも、いつもやられっぱなしは嫌だった。腑に落ちない気持ちをどうすれば良いか蓮はわからなかった。

 そんな蓮に名案が浮かんだであろう、流水は一つの提案をした。


「では、こんなのはどうじゃ?サキに内緒でここで働かんか?」

「......なんでそうなるの?」

「報酬としてワシが直筆の指示書を一筆しても良いが?」

「......もう少し詳しく」

「食いつきすごいのぉ。1日ここで働けばサキになんでも一つ命令できる権利を与えると言っとるんじゃ」

「......天才かよじいさん」


 サキは流水の命令しか聞かないと言っていた。なら、その流水公認の文書があれば気兼ねなく命令できる。何より、後ろ盾があれば蓮も強気でいられる。そう結論付けた蓮の判断は早かった。


「で、でもメイドさんもいる職場ならバレると思うけど?」

「そこは別館で仕事をやらせるので問題ないわい」

「よしわかった!今週の土曜はどう?」

「いつでも良いぞ?ただ、うちは厳しいぞい?」

「大丈夫だ!」


 それから1週間後、蓮は働いた。

 重労働に屋敷中の掃除など一日雑用をこなした。途中辛すぎて心が折れそうになったが、一生懸命働いた。


「......これがわしの直筆サイン入りの指示書と、これは気持ちじゃ」


 終わると流水から茶色の封筒と高そうな高級紙の封筒に入った手紙を直接手渡された。指示書だけでなく、お給金ももらえた。


「ありがとな、じいさん。これで俺も自信を持てる。これで無敵だ」

「睨まれるのには変わらないと思うがのぉ」

「この勅命書があれば問題ない!」

「法律関係ないから通達書じゃがな......お主、 この前サキに感謝していると熱く語っておったが本当にそれでいいのかの?」

「いいの!少しお願いするだけなんだから!それに普段散々揶揄われているんだ。たまにくらいやり返したってバチは当たらないさ。ふふふ、覚悟しろよメイドさん......俺を甘く見るからこうなる」

「えぇ......」


 決意を改めた蓮に流水は引き攣った笑みをしていた。


「ま、サキのことじゃ。上手く遇らうじゃろ。それに、刺激がなければ進展しないしのぉ。それにしても愉快な少年じゃわい」


 流水は執務室で執務室の窓から小走りで帰る蓮の背中を見て意味ありげに呟いていた。

 そして、執務室からはメイドの一条も一緒にいて同じく少年を窓越しに見ていた。

 一条は今日の協力者だ。

 サキが蓮に屋敷にいることを悟られないようにバックアップをしていたのだ。


「一条、お主から見て少年はどうじゃ?」


 その問いかけに一条は思ったことをそのまま伝える。


「……悪くないと思いますが、少し男としては頼りないですね」

「手厳しいのぉ」

「サキは私の妹みたいなものですから、少し厳しく評価するのは当然ですよ」


 一条の評価聞いて流水は紅茶を一口飲んだ。


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