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「......なんのつもりですか?」
そして数日後、蓮はサキが派遣できた後すぐに指示書を提示した。彼女はわけがわからず首を傾げている。
「これが目に入らぬか?!」
「はぁ......なんですか急に水○黄門の真似 事......を」
ため息をして視線を落としたサキは、初めて動揺しているようだった。
元々無表情なので動揺しているかは不明だが、少なくともいつもと様子が違うのがわかる。蓮は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「この意味......わかるよね?」
「......おじい様からの通達書」
「この前メイドさんに内緒で一日じいさんの屋鋪を手伝ったのさ。その報酬として得たんだよ!」
「はぁ。おじい様も絡んでるんですね」
「ふ、驚いて何も言えないようだね。まぁ、詳細は省くけど、俺は一度君に命令ができる、言い逃れはできないよ?」
「はぁ、こんな紙きれがないと強気に出れないなんて。これだから D は......はぁ」
「ど、 童貞を略すなよ!それ今関係ねぇし!」
自分に言い聞かせる蓮は深呼吸をする。蓮は余裕の笑みを浮かべる。
「その余裕......いつまで続くかなぁ?」どんな願いも俺次第なのになぁ」
「.........」
蓮をゴミで見るような視線をサキは向けるが、今の蓮は無敵であった。
「......わかりました」
「あ、 あれ?......なら、命令を下す」
すんなり了承したサキに蓮は驚く。了承したなら、話は早い。大人しく聞いてくれるならなんでも良い。
さて、 何をお願いしようか。 蓮は妄想を膨らませる。
笑顔でおまじないビームか、メイドさんの特性オムレツをアーンしてもらおうかな?ちょっとかわいい格好してもらってチェキでも取ってもらおうかなぁ。メイドスペシャルマッサージに......。
「ど、どうしたのメイドさん」
妄想を膨らませていると、サキは苦虫を噛むように歯軋り、スカートの裾を抑えていた。
「私はこれから耐えがたい辱めを受けるのですね」
「......い、いやそうじゃなくて、今の何の音?ピッて鳴ってたけど」
ピッという機械音が聞こえたが、今はそれどころじゃなかった。
サキの瞳はいつの間にか涙目で潤っていて、小さく涙が頬を垂れる。
サキは言葉を紡いだ。
「泣き言も許されず、ご主人様にされるがままに。ええ!わかりました!わかりましたとも!!」
「いや、ちょっと待って!」
サキは外に聞こえる声で叫び出したので慌てて止めようと蓮。時すでに遅く、サキは張りのある声を発っし続ける。
「どんなことでも抗って見せます!私は屈しません!」
「ちょ!落ち着いて!わかった。わかったから何もやらなくていいから、とにかく静かにして!」
「それが命令ですか!」
「そう!だから静かに」
「わかりました。それが命令ですね」
「そうか、 わかれば......え?」
「では、そういうことで。こちらは私の方でお預かりしますね。ちなみに今の会話は録音してありますので」
サキは蓮の持っていた指示書を取ると録音機を見せつけてくる。
蓮は何が起こっているのかわからず、唖然としてしまう。
「あ、 あの......」
「ご主人様の命令は静かにしろ......ですよね。 録音聞きますか?」
「いや......でも」
「命令と言ったではありませんか?」
「......それはそうだけど」
「まさかこれから理不尽な命令を?ハラスメントで訴えますよ?」
「なんでもありません」
やってしまった......。
蓮の努力は儚く散った。
膝が折れ、蓮は絶望した。そんな蓮にサキは声をかける。
「そんな捨て猫みたいな顔して......一体どんな命令をしようとしていたんですか?」
「......スペシャルメイドマッサージとか」
「なんですかその意味不明の言葉は。はぁ、では私は夕食の支度をします。ご主人様は適当にくつろいでいてください」
「あ、 はい」
蓮の企みは虚しく、空振りに終わってしまったのだった。
だが、これで諦める蓮ではない。蓮は指示書の他にもらった封筒を強く握りしめる。
「……幸いなことにじいさんからお給料もらったし、これでもう一回仕掛けるか」
今度は別で悪巧みを始めたのだった。