「それってお盆に帰って来れなかった理由にはならないと思うけど」
玲奈は呆れていた。
リビングに移動した蓮たちは席に座った。早速蓮は素直に夏休みしていたことを話した。
バイトしたこと、サキと遊びに行ったこと、ゆっくり過ごすだけであったと素直に話した。玲奈は全てを聞き終えてため息を溢す。
だが、怒ってはいないようで数秒の沈黙が続き蓮は苦笑いをする。
「あはは」
「もういいよ。お兄ちゃん帰らなかったのどうせ面倒臭かったからなんでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
「声裏返ってるし。お父さんも実際そこまで怒ってないし、まぁいいや。ズボラなお兄ちゃんに期待しても無駄だし」
「ひ……酷い」
遠慮のないサキの言葉に蓮はショックを受ける。
そんな2人のやり取りにサキは見守っていた。蓮の話がひと段落し、サキと玲奈と視線が合う。
今度はメイドについての情報が聞きたいのだろうと察したサキは自己紹介をするべきと判断した。サキは立ち上がると玲奈の前に立ち、カーテシーをする。
「玲奈様、先ほどは失礼いたしました。改めて自己紹介をさせていただきます。私は柳=ロゼリア=サキと申します。柳財閥当主柳流水様の屋敷に勤めております。現在は旦那様の命により氷室蓮様に派遣という形でお世話をさせていただいております」
「……そうなんですね。氷室玲奈、中学3年生です」
玲奈は言葉に呆気を取られる。
サキの説明に驚いたというより、綺麗な所作に見惚れてしまったのだ。
それからサキは派遣が決まるまでの経緯を玲奈に話した。
現実味のない話に驚く玲奈だったが、最終的に納得したのだった。
「柳さんは本当のメイドさんなんですね。先ほどは疑ってごめんなさい。色々と驚いてしまって」
「普通家にメイドがいたら驚くのも仕方ないかと。私の方こそ失礼しました」
「いいんですよ」
「いやちょっと待って」
「何お兄ちゃん?」
「おかしくない!信じるの早すぎでしょ?、」
「いや、誠実な人って見るだけでわかるんだよ。お兄ちゃんみたいに欲まみれじゃないし」
蓮は通じ合っている2人に思わず言葉を挟む。
玲奈に冷たい言葉をかけられた蓮は納得がいかないが、丸く収まりそうと分かり安堵した。
サキは雑にあしらわれている蓮を見て笑う。
「柳さんなんで笑うの?」
「いや、お二人の姿はまるで出来の悪い弟を叱る姉の姿にしか見えなくて」
「酷くない?!流石にそれはないよ!」
「見る目ありますね。ほんと出来の悪い兄を持つと大変なんですよ?ね、お兄ちゃん」
「俺に振らないでよ」
玲奈はサキの言葉に共感し、蓮はため息を溢す。
ただ、全て丸く収まったので良しとしようと思った蓮だった。
最後に締めくくる。
「とにかく!柳さんとは特殊な主従関係ってだけで友達でもないからね!」
「……お兄ちゃん今のは流石に」
サキはその言葉を聞いてぴくりとする。玲奈はサキの反応を見て蓮を目を細める。
蓮の最後の言葉は悪意はなかった。ただ、玲奈を納得させるために当たり障りのない言葉をかけたつもりだった。だが、サキは友達でもない、という言葉に少しだけムッとしてしまった。
「そうですね。普段は身の回りのお世話の他、ご主人様からお家メイドプレイを要求されるだけです」
「「……は?」」
サキの予想外の発言を聞き2人は目が点になる。蓮は慌てて否定する。
「ちょ?!今のは何かの間違い!」
「何をおっしゃるんですか?メイドスペシャルマッサージをお願いされてましたよね?」
「それしてくれなかったじゃん……あ、いや」
サキは気にせずにこの場で言ってはいけない言葉を投下してしまう。
結果、蓮は言わなくてもいいことを発言してしまった。
蓮は恐る恐る玲奈の方へ向く。
「……お兄ちゃん?」
「これは……」
玲奈は蓮を睨んでいた。見損なったと言わんばかりだ。
蓮はどうするべきか思考をフル回転させる。どうお家メイドプレイについて説明しようか。だが、今何か言ったところで信用されない。
サキに助けを求めようと視線を向けるがそっぽを向いていた。
冷や汗が出始めたその時だった。
ーーピンポーン。
インターホンの部屋に鳴り響く。
「ちょ、ちょっと俺見に行ってくるわ!」
蓮はその場を逃げるように慌てて玄関に向かった。玄関を開けるとそこには紙袋を持った薄生地の正装に身を包む流水の姿があった。
「じいさん、何故ここに」
「仕事で通りかかったんでな。少し2人の様子を見に来たのじゃが……。何かあったのかの?」
「ナイスタイミングだよじいさん!助けてくれ!」
救いの女神が現れたと蓮は目を輝かせていた。流水は状況がわからず首を傾げていた。
流水はそのまま蓮に促されるがまま部屋に連れて行かれる。
「……少年、一体どういう状況じゃ?」
「おじいさま何故ここに?!」
「差し入れを届けに来ただけなのじゃが」
未だ状況がわからない流水を蓮は席に座らせると状況を説明する。
サキが玲奈にお家メイドプレイのことを伝えてしまって空気が悪くなったこと。
どうにかこの場を丸く納めてほしい旨を伝える。
「ワシを巻き込むでない。どうしろと言うんじゃ」
「お家メイドプレイについて玲奈に話して。じいさんから言い出したことだし!」
蓮は最後の頼みの綱の流水に縋る。
この場を解決しなければ蓮と玲奈はしばらく不仲になる。それだけは避けたかった。
流水は過去を遡ればこの状況を作り出した張本人でもあり、責任があるのでここは自分が解決すべきだろうと思った。
流水は玲奈にお家メイドプレイは自分が言い出したことであると説明した。
最終的に玲奈は納得したのだった。ただ、玲奈の蓮への評価は少しだけ下がってしまった。