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第21話

 流水の説明が終わった。全てのいざこざが収まり、雰囲気は穏やかなものになる。

 無事に誤解も解けたあとは玲奈がここに来た経緯について話をしていた。


「高校見学か。そういえば明日だったよね。来るならあらかじめ言ってくれたらよかったのに」

「少しサプライズのつもりで……。まさかこんなことになってるとは思わなかったけど」


 そもそも、玲奈が蓮の家を訪ねて来たのは来年の高校受験に向けて下見と見学を兼ねて来たからだった。

 他にも玲奈は実家にメイド雑誌が送って来たことを不審がっていた。蓮がメイド萌えのことを知っている玲奈からしたら蓮の身に何かあったのではと心配になった。

 だから、お盆に来ていない蓮の様子見を兼ねて高校見学に行きたいと両親にお願いして現在に至る。


「サキさん、このバカに何かされたらすぐに連絡してくださいね。すぐに両親に伝えるので」

「玲奈……なんか俺に対する当たり強くない?」

「常識で考えて、変なプレイをさせようとする変態にはこれくらいでいいのよ。……あ、サキさん他に兄から何かされてませんか?」

「そうですね……他には」

「柳さん悪ノリしないで!まだ未遂なんだから!」

「ふふ」


 サキは玲奈の言葉に少し考える素振りをしたが、蓮は慌てる。サキは2人の遠慮のないやり取りに小さく笑う。

 慌てる蓮はいつも見慣れているが、蓮が家族と親しそうに話しをするのは少し新鮮だった。

 また、家族事情も少し知ることができたり、今日は普段知らない蓮の一面を知れて嬉しく思ったのだった。

 そんなやり取りを流水は微笑ましく眺めていた。自分はお役御免だとわかると流水は帰ろうとする。

 持ってきた手土産を蓮に手渡す。


「話も落ち着いたことだし、ワシは失礼するわい。あ、これ良かったら後で食べて良いからの」

「私もご一緒します」


 家事も落ち着いていたのでサキは流水と共に帰ろうとした。


「ありがとうございました。今後とも兄のことをよろしくお願いします」

「助かったよ爺さん。またな!」


 その後、玲奈と蓮は玄関まで流水とサキを見送ったのだった。

 玲奈と蓮は部屋に戻る。玲奈は蓮に話しかけた。


「お兄ちゃんってすごい人と知り合いだったんだね」

「急にどうしたんだよ?」


 蓮は首を傾げる。


「だって柳流水って名前かなり有名だよ?私でも知ってたし」

「らしいね。俺も最近色々知ったよ。遊園地作ってたりしたんでしょ」

「お兄ちゃん……ニュース見なさすぎでしょ。数年前までたまにテレビ出てたんだよ?」


 蓮は基本的にテレビを見ない。

 流水の存在もスマホで調べて凄さ知ったくらいだ。


「まぁいいけど。あ、明日お兄ちゃん暇なら学校見学一緒に来て欲しいんだけど」

「えぇ。なんでわざわざ夏休みに学校行かなきゃいけないんだよ」

「だって1人だと心細いんだもん。それに、この前電話で話した時言ったでしょ?なんでも頼ってくれって?このままだとお父さんに報告しちゃーー」

「わかった!お兄ちゃんに任せろ!」

「あはは、最初からそういえば良いんだよ」

「玲奈……なんか俺の扱い雑になってない?」

「そんなことないよ?」

「……なんでもない」


 蓮が言葉を止めたのは、玲奈に言っても無駄だとわかったから。

 蓮は今の状況を両親に知られることは嫌だった。説明するのが面倒だし、派遣の話をやめさせるよう言われるかもしれない。

 派遣の話は流れで決まったが、蓮は今のサキとの日常を気に入っている。

 面倒だからと元々約束を破って帰省しなかったのも悪いのだが、現状を伝えられるのは避けたかった。

 妹に尻に敷かれているかもと考えるも、そんなことないと首を横に振った。









「おじいさま、今日はどのような用事だったのですか?」


 サキは流水と帰る途中、ふと疑問に思ったことを聞いていた。

 サキは流水のスケジュールを把握しているが、蓮の家付近に予定があると知らなかった。

 流水はサキの質問にどう答えるべきか悩んだ末、言葉を紡ぐ。


「梗華高校に行っておった」

「氷室様の通っている高校ですよね。どうしてまた」

「知り合いがおるんじゃ。お主の入学手続きを進めていたんじゃ」


 サキは目を見開き立ち止まった。

 流水は立ち止まったサキに問いかける。


「サキ、断ってもらっても構わない。ここじゃが、最近高校についての話を聞くことが多かった。……少し興味があるのではないか?」

「……そんなことは」


 サキは言葉に詰まる。

 正直行ってみたいと聞かれれば気持ちは肯定よりだろう。だが、自分にはメイドとしての仕事がある。

 それを疎かにするわけにはいかない。答えあぐねるサキに流水は温かい笑みを浮かべながら言葉をかける。


「今すぐには返事をしなくて良い。一度直接足を運んでみるのもいいと思わんか?」

「あの、おじいさまそれはどういう……」

「ワシも今日それを頼みに少年の家に行ったのじゃが、忘れてしもうた。まさか修羅場に遭遇するとは思わんかったわい。ほんと、少年はワシの斜め上をいく男じゃわい」


 流水は思い出し笑いをした。


「サキ、ちょうど良いし、明日少年たちと学校へ見学に行ってみてはどうじゃ?」

「……」


 サキは流水の提案に悩んだ末、頷いた。

 せっかくの流水の厚意を無碍にはできず、サキは家に帰った後蓮に電話をした。

 最後にサキは流水に数日考える時間を欲しいと伝えたのだった。



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