「うわ!やば!でか!早く行くよお兄ちゃん!」
玲奈の学校見学も無事に終わり、3人はそのまま流水の屋敷を目指して歩いていた。
玲奈は遠目に流水の屋敷が見え、大きさに驚きの声を上げると、そのまま早歩きで行ってしまう。
「そんなにはしゃがなくても、屋敷は逃げませんから」
「サキさんは見慣れているかもしれませんけど、私こういうの初めてなんです!」
「そうですか。おじいさまから食事の準備は整っているとーー」
「ほんと?!三ツ星シェフの料理が私を待っている!」
「玲奈……」
蓮は反応するのが面倒になっていた。
玲奈はそんな蓮を無視して屋敷の入り口へ行ってしまった。
蓮の天真爛漫な玲奈に困り果てる。
「ごめんね自由すぎる妹で」
「まぁ、出会い頭に変なプレイを願うことに比べれば常識の範囲内かと?」
「……結構根に持ってるのね」
「私にとっては印象的でしたから」
サキは蓮の言葉に茶々を入れるように応えた。
まぁ、実際今となっては良い思い出である。あの一件がなければ今のような関係になれていない気がすると、サキは内心思った。
過去の出来事を出されて引き攣った笑みを浮かべる蓮にサキは行こうと促す。
「さ、行きましょうか」
「……そうだね」
「どうかされました?」
サキは蓮の返事に間があったことが気になった。蓮はサキの表情が曇っていたとなんとなく察していた。聞くべきか悩んだ末、問いかける。
「さっき教室に居た時どうしたの?」
「……はい?」
ずっと気になっていた内容を口にする。
蓮は先ほどのサキの言動が気になっていた。
2ヶ月と少しの付き合いだが、蓮は表情の機微を見逃さなかったのだ。
教室に居た時は玲奈も居たし、サキも話しづらかったと考えあの場では聞かなかった。
「何と言えば良いのかな。少し悲しそうな顔をしていたというか。上手く言葉にできないんだけど」
……あの時の私はそんなにもわかりやすかったんですね。
サキは表情に出してしまったのは一瞬だったと思ったが、蓮は気がついていたようだ。
無用な心配をかけてしまって申し訳ない気持ちになる。
どう話をすれば良いか考え言葉を紡ぐ。
「大したことはございません。さっきも言いましたが、私が氷室様と同じ高校へ通っていたらどんな生活を送っていたのだろうと。楽しそうだなって。例え話ですが、もしも私が同級生だったらどんな立場になっていると思いますか?」
「……そうだなぁ」
蓮は思考した。
サキは少し暗い雰囲気になってしまったことを気にして話の内容を少しだけすり替えた。
そして、改めてサキが同級生だったらと言う話題を考え始めた。
サキは責任感が強い。それに玲奈が教室で言っていた蓮を咎める立場にいるかもしれないと。2人はどんな日乗になっているかを想像する。
「……柳さんは風紀委員やってそうだね」
「毎日氷室様の奇行を咎める立場ですか。確かにありそうですね」
「いや、何で俺が取り締まられる側なの。もしかしたら同じ委員になってる可能性もあるじゃん」
「それはないかと。氷室様は面倒ごと嫌いですし、楽な役割になっていそうです」
「……確かに。実際庶務係だし」
「何ですかその係は」
「大役だよ。黒板消したり、クラス配布の書類を運んだり」
「雑用ですか」
「まぁ、そんなところ。……ぶ」
「ふふ」
2人はおかしくなり吹き出してしまう。
サキの雰囲気が明るくなる。
そんな時「ちょっと2人とも何してるの?早く行くよ!」と玲奈が屋敷入り口から声が聞こえる。
「行きましょうか」
「そうだね。腹減ったよ」
玲奈に呼ばれ2人は屋敷に向かう。
「お兄ちゃん遅いよ。せっかくのご厚意だから甘えないと!」
「玲奈は図太すぎるんだよ」
蓮とサキは玲奈に追いつく。玲奈の一言に蓮は呆れながらそう言った。
その2人のやりとりを微笑ましそうにサキは見守っていたのだった。