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第24話

「流水さんごちそうさまでした!」

「ほっほっほ。元気が良くて結構。久々に楽しい席じゃったわい」


 屋敷での食事を済ませ、蓮と玲奈は流水とサキに見送られて屋敷の出入り口で話をしていた。

 夕食は流水とサキ、蓮、玲奈の4人で食べた。話題の尽きない楽しい夕食であった。

 流水と蓮の出会いや、お家メイドプレイについての蓮の黒歴史。

 ここ数ヶ月の蓮とサキについて、蓮の昔話など。サキが食い気味に話を聞いたりと笑いは絶えなかった。

 会話を重ねたことで各々が親睦を深めていったのだった。


「じゃ、遅いしそろそろ帰るわ。じいさん、柳さんまた今度ね」

「サキさんまた話しましょう!流水さんもご飯招待してください!」

「お前ご飯目的だろ」

「いいじゃん!あんなご馳走そう食べられるわけじゃないし」

「常識というものが」

「サキさんにお家なんたらを要求する常識のない誰かさんに言われたくありませーん」

「う……今日それ何回も言われてるんだけど」

「これこれ、それほどにしてやらんか」


 別れの挨拶のつもりだったが、蓮と玲奈はまた口喧嘩紛いのことを始める。流水が間に入り、2人は口喧嘩紛いを止める。


「ごほん。締まりが悪いのは流石ですね氷室様。遅くならないうちにお帰りください」

「……はい」


 サキは咳払いをして蓮と玲奈にそう告げた。

 2人は首を縦に振り、帰路についた。








「それにしてもサキさんいい人すぎるよね」

「何だよ唐突に」


 玲奈は帰路に着いている際、蓮にそう言った。意図がわからず蓮は聞き返した。


「絶世の銀髪美少女メイドが派遣されてるって誰が想像するの?今だってまだ夢なんじゃないって疑ってるくらいだし」

「ほんと偶然って怖いよね」

「偶然なの?……出来すぎてるような気がするんだけど」

「考えすぎじゃない?」

「ええ……まぁ別にいいけど。来年私が行っても生活の安全は保証されているようなもんだし」

「受かるといいな。応援してる」

「もちろん!勉強わからないところあったらサキさんに聞くんだ!連絡先交換したし」

「いや、普通俺に聞くだろ」

「お兄ちゃんよりサキさんの方が頭いいし、教え方上手いんだもん。さっき少しだけ勉強教わったけどわかりやすかったよ?」

「……それは確かに」


 蓮は納得せざるを得なかった。

 学問の素養は蓮に比べサキは頭一つ上である

 蓮たちは食事の終わった後、ゆっくり過ごしていた。

 玲奈は空いている時間を勉強に充てていて、数学の問題で苦戦しているところをサキは見かけてアドバイスをした。

 サキが声をかけたことがきっかけでサキが玲奈の勉強を教えることになった。

 玲奈は来年蓮と同じ高校に進学を予定している。合格後は蓮と一緒に暮らす。

 もともと蓮が1SLDKの広い部屋に住んでいたのは玲奈と二人暮らしを想定してのことだ。

 わざわざ上京してまで高校に進学したのは蓮本人が乗り気だったこと。両親が子供に自立を促す目的も含まれていた。

 歩く途中、玲奈は足を止める。


「お兄ちゃんはさ。……サキさんのことどう思ってるの?」

「は?何だよ藪から棒に」


 蓮は立ち止まった玲奈に振り返ると首を傾げる。玲奈はニマニマとしていた。


「少しくらい意識したりしないの?」

「何だいつもの恋愛脳かよ。言ってるだろ?恋愛には興味ないって」


 蓮は話を流したが、玲奈は蓮に詰め寄る。


「いやいや、私にとっては死活問題なの!将来姉になるかもしれない人だから!私的にはサキさんが姉ならいいなぁと思って」

「ちゃんと現実を見なさい。変な話しないでいくよ?」

「ああ、また答え濁した!お兄ちゃん銀髪メイド好きじゃん!サキさんならドストライクじゃん!」

「あのなぁ」


 蓮は玲奈を放っておいて帰ろうとしたが、まだ追求が続きそうだったので間違った解釈をしている玲奈に説明する。


「柳さんは友達であり主人とメイドってだけ。そういう目で見ることはないの。どちらかと言うとアイドルの推しに近い感じだな」

「ドキドキはしないの?」

「するさ。俺だって男だ。ときめきもあったりする。玲奈だってかっこいいアイドル見るとドキドキするだろ?それと同じだよ」

「ふーん。つまんない」


 蓮の独自理論に玲奈は納得できなかったのかぶっきらぼうにそう返答した。


「お兄ちゃんちなみにその独自理論実の妹にする話じゃないと思うよ。私じゃなかったらドン引きしてるよ多分」

「悪かったな!なら、聞くなよ全く。あ、もしかして柳さんと変な話してないよな?俺がトイレ行ってる時2人で話してるようだったけど?」

「普通に数学教わってただけだし。そんなことするわけないじゃないですかこの変態」

「う……頼むから心を抉らないで」


 蓮は胸を抑え膝をつく。玲奈の言葉はサキとの初対面で蓮が言った言葉。蓮自身も今思えばあれはないなと思い始めていたのだった。

 玲奈はどこか納得いかない表情を浮かべていた。だが、蓮の趣味趣向を曲げないこの答えは今更かと諦めた。


 2人は他愛のない会話を続けながら家に帰った。そして次の日。玲奈は準備を整えると帰省した

 最後に玲奈は蓮に父親からの伝言を最後に伝えたのだった。


「最後に伝えることあったんだ」

「ん?どうした?」

「お父さんから年末年始帰って来なかったら今度こそ仕送りなくすからって。あとはこの前送ってきた雑誌全焼させるから覚悟しろよだって」

「……はい」

「あ、そうそう。雑誌送られてきた時お父さんとお母さんは雑誌処分しようとしてたよ。でも、私が説得して止めてあげたんだからね。感謝してよね」

「……ありがとうございます玲奈様」


 蓮は宝物を人質に取られ、暮らすための生命線を確保するために今年の年末年始は実家に帰省することが決まったのだった。










「サキさんはあんなにいい人なのにお兄ちゃん最低だよね」


 玲奈は新幹線に乗り込み1人呟く。

 蓮に少し探りを入れた時、サキに何も聞いていないか聞かれたが、実は聞いていたのだ。

 数日と短い時間だったが、玲奈はサキに良い印象を持っていた。初対面で変な発言をしたのも蓮の発言「友達でも何でもない」という発言に反応していたのも気がついていた。

 高校見学の時距離感が近いし、話も楽しそうに過ごしていたので蓮との関係が気になった。

 だから、勉強を教わっていたときに聞いてみたのだ。


『サキさんってお兄ちゃんのことどう思ってるんですか?』


 そう聞いたときサキは直球すぎる言葉に驚いていたが、すぐに答えは返ってきた。


『良い友人だと思っていますよ。……今は』


 含みのある言い方であった。


「今は……ね。少なくともお兄ちゃんにもワンチャンあるってことかな」


 玲奈はどんな結末であろうと蓮とサキの行く末が気になる。なんなら、自分から介入して2人の恋のキューピットになろうと考えもした。だがやめた。


「野暮ってもんだし。あの2人の不思議すぎる関係に踏み込めないよね」


 主従関係であり、友人。

 メイドと主人で同い年の男女。

 そんな遠くも近すぎることもない。微妙な距離感。


「お盆のときに根掘り葉掘り聞いてやろ!」


 蓮とサキの関係は一旦保留だ。半年後、蓮が帰省してきたときに詳しく聞いてやろうと決めた玲奈だった。

 今は玲奈は受験生。人の恋路にうつつを抜かしている余裕はないのだ。


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