サキが転入してから2週間が経った。
クラスの賑わいも落ち着き、サキは馴染み始めていた。
クラスメイトとも打ち解けた。
ただ、サキは校内中から注目の的であり、噂を聞きつけた生徒が見学に来るまでになる。
今でもたまに覗きにくる生徒もいる。
転入した頃は告白も毎日の様にあった。だが、幸いなことに女生徒からは嫉妬に駆られることも煙たがれることはない。
とある理由でサキの好感度が上昇し続けていた。
「サキさん俺に恨みでもあるの?」
昼休み、昼食を食べ終えた蓮は机に顔を伏せながら疲れた声を発した。サキは隣に座りながら背中をポンポンと叩き心配した。
「そんなに窶れてどうしたんですか蓮くん」
「君が告白されるたびに心に決めた人がいるとか言い回したせいで、毎日殺気を向けられるわ、不良に絡まれるわで平穏が無くなったんだけど?」
「もう全て丸く収まったのですからいいではありませんか?」
蓮は顔を上げながら文句を言う。サキはキョトンとしていた。
2週間蓮は物騒な毎日を送っていた。サキは告白された時に心に決めた人がいると言って蓮を仄めかしていた。
そのせいで嫉妬に駆られた過激派の男子生徒が放課後呼び出して集団でリンチにしようと画策するなど大変な目に遭っていた。
サキの評価が上がった理由はサキは大切な人に真っ直ぐすぎると言うこと。
一度、蓮はやられそうになった時、リンチしようとした男子生徒を返り討ちにした。「蓮くんに手を出すというなら私を倒してみなさい!」とそう宣言したのだ。
そのサキの勇姿は瞬く間に校内中に広がった。
結果、サキは告白されなくなる。蓮は敵視はされても襲われなくなった。
「まぁいいけど」
終わったことはどうでも良い。蓮は再来した平和な日常に満足したのだった。
蓮は大切な人がいるとサキが言った時、告白されるのが面倒だからという理由を蓮に伝えてあった。サキの男避けという立場にあると思っている。実際サキも面倒だからというのと、蓮自身に異性が寄ってこないようにという理由も含まれる。
蓮自身もはじめは嫌な顔をしていたが、男絡みで今の派遣の話が破談する可能性もあったので、それをいけ入れているのだ。
そんな蓮とサキが二人で昼休みに過ごすのは当たり前の日常風景となりつつある。
「いつもお暑いねぇ。殺したいほど妬ましい」
「爽やかな笑顔でなんて物騒なこと言ってるんだよ」
そんな二人に声をかけてきた人物が一人。進藤はニカっと笑みを浮かべ強く拳を握っていた。
「俺に手を出さないほうがいいと思うよ?どうなっても知らないから」
蓮は余裕の表情。つい2週間前まではこう言った進藤の言動にビクビクしていたが、近くにサキがいるから堂々としていた。
「お前女に守ってもらうの恥ずかしくないの?」
「恥の上塗りですね」
「冗談じゃん。本気にしないでよ」
進藤、サキはそれぞれ微妙な表情で言葉をかけた。蓮は冗談のつもりなので訂正する。
普段サキと蓮は一緒にいてたまに進藤が絡んでくる。進藤はサキに初めはよそよそしかったが慣れてきてからは会話に入ってくるようになった。
進藤はそのまま自分の席に着く。このまま話に混ざるようだ。
進藤は席に着くと両肘をついてため息をこぼす。
「もうすぐ試験だって言うのに、お前ら余裕だな」
「そういえば中間考査だったね」
蓮は少しわざとらしく応答していた。
蓮はふと6月頃にしたサキとの会話を思い出していた。
サキはあの時漢字が難しいと言っていた。
「そういえばサキは漢字に苦戦してたみたいだけどあれから克服したの?」
「まだ、難しいですね。授業についていけなくはないですが。……今回は平均点を取ること目標にしてます」
サキは心配そうな表情になる。
蓮はその言葉にニヤリとする。
「サキ、今回の中間考査……俺と勝負しない?」
サキは目を細める。
(やはり、そう来ますか)
サキはなんとなく中間考査で仕掛けてくるだろうなと予想していた。見事的中したのだ。
サキは言葉巧みに蓮を誘導していた。
だから、普段、蓮から勉強面でわからないところを聞いていて、漢字が苦手という信憑性を高めていた。
前回の真剣衰弱の件ではやられた。サキはずっと根に持っていたのだ。
「いいですよ?ただし、途中棄権は無しですからね」
「もちろん」
中間考査の件で勝負を受けてもらえるか半信半疑だったのだろう。蓮は驚いていた。だが、勝利を確信する笑を浮かべる。
サキはうぬぼれている蓮にサキは釘を刺した。これでもしもの時は大丈夫だ。
「お前らは余裕でいいよな。勝負する余裕あるのかよ。俺は今日から追い込みだな」
進藤はサキと蓮の会話を聞きながら呆れていた。
こうしてサキと蓮は2度目の勝負が決まった。