目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第28話

「まさかあんなにも本気になるなんて」


 サキは高校から帰宅すると仕事はせず試験勉強に励んだ。

 勉強にひと段落ついたタイミングでサキは休憩をとっていた。

 サキは2学期中間考査で蓮との勝負が決まったわけだが。あの時サキはちょっとした嘘をついていた。

 日本に来てからサキは時間がかかったものの漢字やひらがなはすぐに習得していた。

 日本に長期滞在するし、覚えていないと不便に思うことがあったので現在では他の生徒と遜色ないくらいには習得している。

 中間考査の試験対策はもちろんしている。初めての試験のため要領をつかめていないが。

 蓮は今回勝ったら一つ命令できると権利がかかっているため一心不乱に勉強していることだろう。


「……たまにはいいですよね。お互いリスクを背負っているわけですし」


 今回の中間考査、サキは少し前から蓮から勝負を仕掛けてくるように誘導していた。そのことに少しだけ罪悪感を抱いたサキだったが、真剣衰弱の件で先に仕掛けてきたのは蓮だ。これでおあいこである。


「さ、まだまだこれからですね」


 サキは大きく深呼吸し、席に再び着く。

 時計は10時を過ぎていた。徹夜は乙女の天敵だが、今はそれに構ってられない。

 蓮も必死に勉強しているのだ。

 負けるわけにはいかない。

 サキは頭を切り替えて勉強に励んだのだった。





「……ふはは。勝てる。勝てるぞ」


 蓮もまた、サキに勝つために勉強に励んでいた。

 蓮はやる気に満ち溢れ、サキにどんな命令をしようか考える。想像するたびに勉強の意欲が増している。

 以前の真剣衰弱は勝てる見込みは半々だった。

 真剣衰弱の練習を重ねて、もしもの時のためにイカサマトランプまで用意した。

 それでも返り討ちにあってしまったが。


 だが、今回は勝機を見出している。

 サキは試験慣れしていないし、初見。

 今、試験科目では日本の歴史もあるし、古典もあるなど教師によって癖があるので、試験対策のやり方を慣れていないと大変な面もある。

 蓮は勉強は得意である。毎日コツコツとして試験の範囲は網羅している。


「ここも出そうだな。いや、もっと深く調べておこうかな」


 そう言いながら蓮は資料集を開く。

 授業で先生が強調して言っていた範囲だ。細かく調べておくに越したことはない。

 サキは天才だ。油断は禁物。


 なるべく全教科満点をとりに行くくらい勉強するに越したことはないだろう。

 勝機があるとしたら、今回のみ。サキは飛び級で高卒資格を得る秀才だ。

 念には念を。

 蓮は今まで以上に本腰を入れて勉強したのだった。

 そして、試験当日を迎えた。


「ああ、やばい。俺全然勉強してねぇわ」

「いや、蓮くん目の下のクマがすごいですけど。徹夜してたんですね。試験に響かなければいいですけど」

「そう言うサキは随分余裕そうだね」


 蓮とサキは教室で向かい合う。

 サキは前日はぐっすり眠り、蓮はギリギリまで知識を詰め込んでいた。

 二人はそれぞれ違う過ごし方をして試験に臨んだ。


 2学期中間考査は3日間かけて行われる。 

 蓮とサキ、互いに負けられない戦いが始まったのだった。






「さて、サキは自信はあるかな?」

「まぁ……程々でしょうか?蓮くんは自信があるようですね」

「ふふん。俺は自己採点で過去最高点だったからね」


 2学期中間考査が終わり1週間後。

 サキと蓮は、蓮の住むアパートの部屋で向かい合って座る。

 サキと蓮はお互いの前には試験結果表がある。

 緊張の瞬間、互いに試験結果票を手に取る。


「……は?」


 蓮はサキの結果を見るとキョトンとする。見間違えか何度もサキの結果を見直す。

 書かれた順位が変わらないことを何度も確認する。


「……一位?」


 確認するような蓮の言葉にサキは誇らしげな笑みを浮かべていた。

 現実を受け止め切れていない蓮はまだサキと試験結果を交互に見ている。


「……授業苦戦してるって」

「あんなのブラフではないですか?」

「古典以外ほぼ満点って」

「古典難しいですよね。少し苦手です」

「でも、93点……全敗じゃん」


 サキは気にした様子はなく淡々と答える。サキは古典だけ理解が及ばず満点を逃してしまったが、それでも十分すぎる成績だ。

 対して蓮はほとんどの強化を9割を超えているものの、試験順位は7位。しかも試験では勝っている教科はなかった。

 過去最高点なのに、差は歴然。

 サキは固まってる蓮から通知表をスッと抜き取ると蓮のものを手渡した。


「約束忘れてないですよね?」

「……はい。何なりとお申し付けください」


 言い逃れはできない。サキはトドメの一言で蓮は了承したのだった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?