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第34話

 中間考査が落ち着いてすぐ、文化祭準備が始まった。サキたちのクラスは無事審査が通り、普通の「喫茶店」となった。

 料理についても蓮が家庭科室を押さえたこともあり、料理に関しても問題ない。

 それに、米粉を使ったマフィン、ジュースを提供するというシンプルなものだったので、どうにか審査が通ったのだ。

 あとは準備に取り掛かるのみ。

 サキは準備期間に入ったあと、料理の当番として割り振られた。実際、料理のレシピはサキが考案したものなので、理にかなっていた。

 だが、マフィンの作り方はシンプルなものであり、一緒に割り振られていた女子生徒たちはお菓子作りに慣れている人たちなので、細かい注意点だけ教えれば難なく覚えていた。

 今はお菓子を焼いている時間なので、やることもなく談笑が始まっていた。

 この場にいるのは年頃の女子たちのみ。自然と内容は決まってくる。


「男女で渡り廊下を渡ると結ばれる?」

「そうそう! もちろん柳さんは氷室さんと行くんですよね!」

「だって想い人じゃないですか!」


 サキは2人の女子生徒から詰め寄られていた。

 どこの高校の文化祭にも噂はつきものである。

 梗華高校も例外ではない。

 いつから広まったか不明なものの、渡り廊下を渡った男女が幸せになるという色恋沙汰の噂話は有名である。

 それを目的に男子生徒が気になる女子を誘って文化祭を回ろうとするのは、当たり前の風習になりつつある。


「……さぁ、どうでしょう?」

「いいなぁ。私も今年は彼氏作ろうかなぁ」

「あんたは同じようなこと毎日言ってるでしょうが!」

「確かに」


 そんな会話を続けつつ、サキは談笑を続けた。

 サキは蓮との関係について聞かれるも、誤魔化した。

 だが、満更でもないようで、嬉しそうにはぐらかしていたことは、2人の女子生徒にはなんとなく伝わっていたようだ。

 会話に花を咲かせていて、いつのまにか時間は経っていた。


「……あはは、いつの間にか焼けてたんだね」


 時間は1時間ほど経っていた。サキとしてもこのようなミスは久々であった。

 初めは時間を意識しながら話していたものの、恋愛の話から派生して恋愛相談、最近のコーデ、流行りの話題に入った。

 ここまで深く同年代の女子と話す機会は今までなかったので、サキとしては初めての体験。

 故にサキ自身もはしゃいでしまったのだ。

 みんなが文化祭準備に一生懸命取り組んでいるのに、自分たちだけ楽しく話しているのは後ろめたさがあった。そのため、先ほど話していたほどの元気は2人ともなくなってしまっていた。

 サキはそんな2人を見つつ、自分にも責任があると感じていて言葉をかける。


「大丈夫ですよ。マフィンは冷めても美味しいですから。さ、試作品をクラスに持っていきましょうか! これから文化祭準備には期間がありますし、働き詰めだと参ってしまいます。ここは3人だけの内緒にしましょう」


 サキは人差し指を口に寄せて「内緒にしましょう」と提案する。大人の雰囲気を醸し出しながら、安心させるようにそう言った。

 サキは一条から教育を受けた際の雰囲気をなんとなく真似して言った。


「あの、どうかされました?」


 だが、返ってきた反応は目を見開く2人。気のせいでなければ、瞳が潤ってキラキラしているようにも見えた。


「「あの、お姉様って呼んでもいいですか?」」

「……は?」


 唐突に尊敬の眼差しを向けられ、困り果てるサキだった。サキが思っていた以上に、2人にはかっこよく映っていたらしい。


 それからサキに惚れかけた2人を正気に戻したあと、出来上がったマフィンをクラスに持っていく。


「ほら男子ども喜べぇ。女子の作ったお菓子だぞぉ」

「お! マジかよ! ラッキー!」

「天の恵みだ」

「図が高いぞ男子ども! 控えよ控えよ!」


 準備中のクラスに入ると、サキたちの差し入れに気がついた女子生徒の1人が時代劇のような寸劇をしながら声をかける。

 その声に便乗して、他のクラスメイトたちが群がってきた。


 その光景を見て、このクラスのノリは悪くないと思ったサキだった。




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