『ふしぎなポケット』という唄を知っているだろうか。
“ポケットの中には、ビスケットがひとつ
ポケットを叩くと、ビスケットが二つ
もひとつ叩くと、ビスケットが三つ
叩いてみるたび、ビスケットが増える”
あなたがそんなポケットを持っていたとしたならどうしますか。
ぼくは、アフリカに行きました。アフリカで飢餓に苦しんでいる子供たちに、ビスケットを次から次へとポケットから出して食べさせてあげたのです。子供たちはみんな元気を取り戻しました。
そんなある日のことです。いくらポケットを叩いてもビスケットが出てこなくなってしまったのです。
ぼくは焦りました。
「どうなってるのだろう」と、ポケットをのぞき込みました。するとポケットの中から声が聞こえてくるではありませんか。
「ビスケットの代金として、しめて3億5千万円いただきます」
「え、どういうこと?」ぼくはポケットの穴に向かって声を出していた。
「どうもこうもありませんよ。こっちは異次元世界のイングランドの製菓工場です。あなたが次から次へとビスケットを消費なさるんで、もう原料も底をついてしまったのです。さあ、そろそろ支払いをお願いします」
「・・・・・・ちょっと待って」
「お支払いいただけないようでしたら、あなたは末代まで一生こちらの工場で働いていただくことになりますが」
「こちらって」
「この世はメビウスの輪のようになっているのです。表と裏は表裏一体。知らなかったとは言わせませんよ」
周囲の子供たちも騒ぎはじめました。この話は世界中を駆け巡った。いよいよ返済期日がやってきた。もはやこれまでと、覚悟を決めたとき。
「ちょっと待った!」ポケットの中から別の声がした。「ビスケットの原材料は、小麦粉と牛乳、バター、卵、砂糖でしたな。そっくり現物でお支払い致しましょう」
声の主は、異次元世界のインド政府だった。
「あなたのお優しい気持ちを無駄にできません。我が国はこれら原材料の豊富な産地国なのです」
「どうしてそこまでして」ぼくは涙ながらに尋ねた。
「これからの世界をリードするのは、米国でも中国でもありません。インドとアフリカなのです。アフリカの人口減少を助けてくれた言わばあなたは命の恩人なのです。今の内にアフリカに恩を売っておくのも悪くないでしょう」
その後ぼくはインドに渡った。そしてお礼に日本の農業を教え、大勢の友達も作った。
もちろん、ポケットはすべて縫いつぶしておいて・・・・・・。