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七夕

織姫おりひめどの!」

彦星ひこぼしさま!」

 ふたりは天の川を渡って抱き合った。

「逢いたかったよ」

「逢いたかったわ」

 彦星と織姫はお互いの唇を重ねた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもの。

「なぜだろう。こんなに愛しているのに。きみなしでは生きていけないのに・・・・・・」

「彦星さま。あなたを失うくらいなら・・・・・・」

「織姫どの。あなたと逢えなくなるぐらいなら・・・・・・」

「いっそ、この川に・・・・・・」

「身を投じよう。天国に行ってもこの手は絶対に離さないからね!」

 そう言うと、織姫と彦星は手と手をつなぎ、天の川に飛び込んで行ったのであった。


※※※※※※


 彦星は熱心に牛追いの仕事をする誠実な若者であった。そんな彼を見て、神様が言った。

「彦星よ。お前は仕事熱心ないい男だ。一度わたしの家に遊びに来なさい」

 彦星はさわやかな笑顔で答えた。

「神様。よろしいのでございますか?」

「もちろんだとも。うちにも織姫という働き者の娘がおるのだ。紹介しよう」

「ありがとうございます」

 翌日、彦星は神様の家を訪れた。そこには美しい女性が待っていた。

「おお、やって来たな。これがわたしの娘の織姫だ。一日中機織りばかりしている機織りの虫でな。たまにはお前のような男と遊ぶのも必要だろうと思っていたのだ」

 一目惚れだった。

 ふたりはあっと言う間に親しくなり、結婚を誓い合う間柄となった。夫婦になると二人は仕事もせずに、毎日イチャイチャと堕落した生活をし始めた。

 それを見て神様はため息をついた。


※※※※※※


 彦星が川から上がると、向こう岸でも見知らぬ女性が川から上がってくるのが見えた。

「誰だろう?」と彦星は一瞬思ったが、すぐに別のことを思い出した。「そうだ。今日は牛を牧草地に連れて行かなくてはならないのだ」

 織姫は家に戻った。

「おお、織姫どこに行っておったのだ」

「もう暑くて。川で水浴びをして参りました」

「もっと遊んでくればよかったのに」

「まだ機織りの仕事が残っていますから。もうすぐお父様の浴衣が完成するのよ」

 織姫は冷蔵庫からカルピスを出してきた。

「いくら好きなものでも、ほどほどということを忘れてはいけないよ」

「はいはい、お父様」

 織姫はカルピスを薄めながら答えた。

 天の川の水は神様が作った魔法の水で満たされていた。それを飲むと、好きな異性をぴったり364日の間忘れてしまうのだった。

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