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第17話

教会には戻らず、馬車は直接王宮に到着した。


「着替えも出来ないのかしら?」

流石にこんな埃っぽい格好で王族……いや、ウィリアム様に会うのは嫌だ。


「訊いて来ましょう」

アメリがいち早く馬車から飛び出し、司祭に尋ねに行ってくれた。

ふと見ると、もうレオナ様を乗せた馬車の姿はない。何処かで別れてしまったのだろう。流石に王宮には来なかった様だ。

すると、もう一つの馬車……アナベル様の馬車に侍女が走り寄る姿が見えた。あれは……教会で待っている筈のアナベル様の侍女だ。

馬車から降りたアナベル様に何か耳打ちをしている様だが、離れている私には何も聞こえない。

しかしアナベル様の顔は満足そうで、何か良いことでもあったのだろうか?と想像する事が容易い程だった。

何となくその様子が気になるが、それが何なのか私にも説明は出来なかった。


「今から王宮の一室でお着替えだそうです。流石にこのワンピースで王族に会うのは不躾な様で」


「……まぁ、そうよね。助かったわ」


「ローナン公爵令嬢様が着ている様な派手な装いなら、別に問題はないかもしれませんけどね」

アメリの言い方には悪意があるが、私も同意見な為、諌めることはしなかった。




王族の前に姿を現すとなれば、こんなドレスじゃなきゃダメなのか……と王宮の一室で溜め息を吐く。


「仰々しいわね」


「これでもきっとローナン公爵令嬢様より地味だと思いますけどね」

私を張り切って着飾らせているアメリには悪いが、こういうドレスは苦手だ。



支度を終えた私は大司教達の待つ広間へと通された。着飾るだけで疲れてしまった私は小さく溜め息を吐く。


今の大司教様は異例の若さでその座に就いたと言われている。私は聖女試験の初日に顔を合わせただけだが、正直とても綺麗な男性だな……という印象だった。長髪に切れ長の目。そして年齢不詳。若くも見えるし年寄りにも見える。不思議な人物だ。

何故か彼の前に立つと緊張してしまう。見えない圧とでも言うのだろうか?変なオーラがあるのだ。

私達二人が揃うと、大司教様はゆっくりと口を開いた。


「お二人ともお疲れ様でした。全ての試験が終わり、今日で正式に聖女が決ります」

大司教様は私達の顔を順に見ていく。彼は既に結果を知っている筈だ。


「ここで結果を発表し、陛下から直々に聖女の称号を与えられた者はこのまま王宮に留まっていただきます。既に魔王封印の為の隊は調整済です。後は聖女が共に封印に向かう王族を指名していただくだけとなります」

ここで聖女に指名される事。これが王太子になる為には必要不可欠だ。何故なら魔王の封印に携わった王族は次期国王の座が約束されているからだ。


「では……私の手には最終試験の結果と、聖女となるに相応しい者の名前が書かれた物が既にあります。ここで勿体ぶっていても仕方がありませんので、早速結果を発表しましょう」

大司教様は淡々と静かにそう告げると、巻かれた紙を広げた。


「まず……最終試験の結果。ソーントン伯爵令嬢は棄権ですので……では、ローナン公爵令嬢」

名を呼ばれたアナベル様は少しだけ微笑むと、真っ直ぐ前を向き大司教様を見詰めた。


「最終試験、出現した魔物の数は十。ローナン公爵令嬢が倒した魔物は五。魔物の強さのレベルで言うと……五段階評価の二から三といった所ですね。良く頑張りましたね」

穏やかに微笑む大司教様に、アナベル様は得意そうに頷いた。


「ありがとうございます。精一杯務めさせていただきました」

その言葉に、大司教様もウンウンと頷いた。


「では……次にウォルフォード侯爵令嬢」


「は、はい!」

緊張感から、声が上ずる。

そんな私を馬鹿にする様にアナベル様がフッと笑った。しかし、私はそんな事は気にしていられない。耳に全神経を集中させ、私は大司教様の言葉を待った。


「最終試験……正直この結果を見た時、私は思わず自分の目を疑いましたよ。こんな結果は私が教会に身を置いてから初めてだ」

そう言ってから大司教様は一呼吸置いて続けた。


「出現した魔物の数は三十五。内、ウォルフォード侯爵令嬢が倒した数……三十一!そして魔物の強さは三から四。信じられない数字だ」


大司教様の言葉に周りに控えていた司祭達や、王宮で働く貴族達がざわつく。

視線を感じて横を向くと少し離れた位置に立っていたアナベル様が私の方を見て、目を見開いて睨んでいた。


喧騒を押さえる様に大司教様が大きく二回手を叩いた。


「お静かに。しかもウォルフォード侯爵令嬢は自らの力で魔物を倒したそうですね?稀にそのような攻撃的な力を持つ聖女が現れると聞いた事がありましたが、その存在をこの目で見たのは初めてだ」

そう言うと、大司教様は私の前に近付いた。


「良く頑張りましたね。正直、それまでの試験で貴女はパッとしなかった。ずっとこのローナン公爵令嬢や、ソーントン伯爵令嬢の陰に隠れていましたが、最終試験のこの結果を見て、誰が貴女以外に聖女が務まると思うでしょう」


「大司教様……」

彼の言わんとする事が分かって、私の声は震えた。


「全ての試験を加味しても、貴女が聖女に相応しい。貴女が次の聖女です」

私と大司教様の目が合う。彼の瞳に驚いた表情の私が映っていた。


それと同時に扉が開き、陛下と二人の王子が広間へとやって来た。


「聖女候補の二人。ここまで良く頑張った。試験の結果を受け、聖女の印であるサファイアのティアラを……」

陛下が側に控えて居た側近が恭しく持っていた台座から陛下がティアラを受け取ろうとした、その時―


「お待ち下さい!!」

とアナベル様が手を挙げた。


陛下の言葉を遮るなんて……と皆が青ざめる。陛下も不機嫌そうに眉を上げた。


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