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第38話

「下剋上?何の話?」


今の今まで丁寧に言葉を選んでいたつもりだったが、つい素が出てしまった。


「つまりだな。俺とお前の二人で今から魔王を封印しに行くんだ」


「何を馬鹿な事を……。もしやここに来るまでに頭を強く打ちました?もう一度癒しの力を使いましょうか?とはいえ、残念ながら賢くはなれませんけど」

この人どうしちゃったのかしら?と思いながらも私がもう一度頭に手をかざそうとすると、


「おい、やめろ。頭は打ってないし、別におかしくなった訳でもない。あと、お前少し失礼じゃないか?お前の方が成績が少しだけ良かったからって……」

とロナルド様はしかめっ面で私の手を避けた。


「頭も打っていないのに、そんな馬鹿な事を言っている方が問題だと思いますけど?それに、私が追放されてからもう十日以上が経ちます。そろそろ魔王は封印されている頃でしょう」


「それがな……まだなんだ。多分」


「まだ?!多分?!どういう事です?もしや魔王が既に復活してしまった……とか?」


「いや。俺が此処に向かう為に、王宮を出る時まで……討伐隊は出発していなかった」


「していなかった?!ロナルド様はいつ頃王宮を出発されたのです?」


「うーん。此処に来るまでに五日か六日はかかっただろうな」


「へ?それなのにまだ討伐隊は動いていない……と?」


「そうだ。だが討伐隊は準備万端、出発を今か今かと待っていたがな」


「では、まだ魔王は封印されていない?なら魔物がそこら中に溢れてしまっているのでは……!」

私は青ざめた。此処まで私を連れて来たラルゴと御者、二人の顔を思い浮かべる。

彼らは無事に王都まで帰る事が出来たのだろうか?この森までの道中、あんなに多くの魔物に出会った事を考えると、それはとても難しい事の様に感じて私は目の前が暗くなった。


「おい、顔色が悪いぞ?」


「あの……此処に来るまでに私を連れて来た護衛達とすれ違いませんでしたか?」


「お前を連れて来たって……馬車だろ?正直、王都から離れるにつれて魔物の数が増えた。それに反比例する様に人には出会わなくなっていったからな……同じ道を通っていない可能性もあるが、すれ違ってはいないと思う」


「そう……そうですか……」

ロナルド様とは違う道を通ったのかもしれない。私は無理矢理そう思い込む事にした。

そうでなければ、直ぐにでもこの森から飛び出してしまいそうだった。


「お前を此処に連れて来た奴だぞ?そんな奴らの事を心配してるのか?」


「彼らは仕事をしただけ。それに此処に来るまで命がけで私を守ってくれました。それは事実ですから」


「お前は……。いや、お前はそういう奴だったな。さっき、お前が心配した通り、魔物は増えた。俺も此処に来るまでに多くの村が閑散としているのを目の当たりにした。動ける若者達は皆王都に避難を始めていて……村に残るのは家や畑を守りたい年寄りばかりだ。彼らの多くは困難に直面しても、生まれ育った地を離れようとはしない」


「そんな……!もう聖女も共に旅立つ王族も決まっているというのに……!」


「それに……王太后の具合が良くない。彼女の力は殆ど残っていない」


「ならば……そのうち、封印が解かれて……」


「魔王が復活するかもしれない」


「それでは手遅れです!!何故?!」


「さぁ……?聖女様とやらの気分が乗らないんじゃねーの?俺には体調が悪いって言ってたが」


「であれば聖騎士が……」


「お?お前も知ってるのか。聖騎士の正体」


「はい……一応」


「俺は……あの制度にも思う所があるんだ」


「あの制度って?」


「『聖女保護プログラム』だよ。あれには聖女候補となる人間の気持ちが全く反映されていない」


「……同じ気持ちです。私の様に養父母に恵まれた者は幸せですが、そうでない者が多くいる事に驚かされました」

少なくとも私はあの養父母の元で幸せだった。

たった六年……それでも私は彼らとの暮らしに希望を見出していた。


「そう言えば……ウォルフォード侯爵が教会と陛下に猛抗議をしていたな。俺はあまり詳しい事は知らないが、お前の潔白を証明し、お前の追放を撤回させると」


「そんな……もう私達は関係ない……」


「大切な娘を取り戻す……そう言ってたよ」

私はその言葉に頬が涙で濡れていくのを感じた。


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