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第43話


私達はそのまま森の奥へ奥へと歩みを進める。

木々が生い茂り、日が昇りきらない内は、この場所はとても薄暗かった。

夜目の効くディグレが私達を先導する。しかし足元の悪い事も相まって、森を抜けるのに昼過ぎまでかかってしまった。


「私の歩みが遅いばかりに時間がかかってしまってすみません」


「ん?別に謝る必要はない。足は大丈夫か?」


「はい、今のところは」

大きく平らな石を見つけた私達はそこで少し休むことにした。

水筒に入れた川の水を一口飲む。山で水が確保出来るのかが心配だ。此処ではあまり飲みすぎない様にしようと、私は水筒の口に栓をした。


「あまり我慢しなくて良いぞ」


「でも、あの山がどんな所かわからないので……」

私は目の前にそびえ立つ山を仰ぎ見た。岩場が多いのだろう。木々の緑より、岩場の茶色が目立つ。


「この山の向こうに魔王が封印された山がある。二つの山は元々一つであったのだが、初代の聖女が魔王と戦った時、魔王の攻撃により山は真っ二つになった……という伝説が残されている」


「はい?魔王って……そんな力を?山を真っ二つ?」

私は青ざめた。魔王が復活してしまったら、勝ち目はない。そう確信出来るエピソードだ。


「落ち着け。そういう伝説があるだけで、事実とは言っていない」


「な、ならどうして、今そんな話をするんですか!?」

何故この緊迫した状況で、私を怖がらせる事を言うのか?!理解に苦しむ。


「そう焦るなよ。何となく思い出しただけだ。……だが、油断は禁物って事だよな」

そう言いながらロナルド様も同じ様に山を仰ぎ見た。


向こうは聖女をはじめ、ウィリアム様に多くの騎士を連れてやって来ている筈だ。それに引き換えこちらは二人と一頭。今更ながらに、それがとても無謀な事の様に感じていた。

ディグレにも水を飲ませ、私達は改めてまた歩き始める為に、立ち上がった。


「じゃあ、ぼちぼち行くか」

ロナルド様の声を合図に、私達は前に進む。


その時、小さなウサギの様な生き物が数匹ピョンピョンとこちらにやって来た。


「ん?ウサギか?」

私はその生き物に見覚えがあった。


「ロナルド様!魔物です!」

最終試験で私が出会った事のある魔物だ。


「何?!」

ロナルド様が剣を構えると同時に、その生き物は牙を剥いて襲いかかって来た。

気付くと、何匹も何匹もこちらに向かって集まって来ている。

ロナルド様はその魔物と一旦距離を取ると思いっきり剣を振って切り捨てた。

私も何度も何度も聖なる力を弓に変えて矢を射ると、光の矢の刺さった魔物が射られた途端に黒い霧となって消えていく。

ディグレもその鋭い爪と牙で魔物を切り裂いていた。しかし、何度倒しても、後から後からその小さな魔物は現れる。このままじゃ埒が明かない。


「おい!きりが無いな!」


「私が結界を張るので、ここは一旦走り抜けましょう!」


「分かった!」

私はロナルド様の言葉に両手を前に出した。掌が眩しく光る。私はそのまま私達三人を囲う様に結界を張った。


「走れ!!」

魔物が私達目掛けて飛び掛って来るが、私の結界に弾かれる様に飛んで黒い霧となって。消えた。

私達は一目散に駆けていく。気づけば魔女の森を離れ、越えるべき山へと足を踏み入れていた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


「大丈夫か?もう結界を解いて良いぞ」

魔物を弾く程の強い結界を張り続ける事は、力の消耗が激しい。


「でも……。今後を考えると結界を張り続けた方が……」


「この山を登るだけでも体力を消耗する。俺達が目指すのはあくまでも魔王封印だ。その時に力が発揮出来なければ意味がない。力が温存出来る時には無理はするな」


「はい……」

私達二人と一頭……いや、三人は既に山の麓へと立ち入っていた。


「この岩山を登るのですね」


「あぁ。少しでも先に進もう」

結界を解いた私は、息を整えて前に進む。そんな私達を今度は空から魔物が襲って来た。


何匹の魔物を倒しただろう。急勾配の岩山を登りながらの戦いは、私の体力を思いっきり奪っていった。

『ガクッ!』

思わず膝が折れて、私は地面に手を付いた。


「大丈夫か?!」


「は……はい。少しふらついただけです」

立ち上がろうとする私にディグレが近づいた。まるで自分に乗れと言っている様だ。


「ディグレありがとう。まだ大丈夫よ」

そう言った私にロナルド様が手を差し伸べる。

私はその手を掴んで、何とか立ち上がった。


「時間は分からんが……そろそろ休もう」

ロナルド様はそう言いながらキョロキョロと周りを見渡す。


「あそこに少し平らな部分がある。今日はあそこで休む事にしよう」

ロナルド様の指差す場所はこの岩山の中では比較的開けた場所になっている。


山を登り始めてどのくらいの時間が経ったのだろう。しかし、既に日は傾き、辺りには夜の気配が漂い始めていた。


私はそれに頷くと、私達はその場を目指しまた歩き始めた。


「イタタ……」

大きな石の上に腰掛けて、私はトラウザーの裾を捲った。さっきふらついて膝をついた時に、石で怪我をしたようだ。私の膝には血が滲んでいた。


「大丈夫か?」

焚き火の用意を終えたロナルド様が私に近づく。


「はい。少し擦り剥いただだけです」


「これで傷口を洗っておけ」

ロナルド様が私に水筒を手渡す。

この急勾配に、喉の渇きを我慢出来ず、何度かその水筒に口をつけていた。残りはあまり無い。


「でも……」

飲み水が確保出来ていない今、この水筒の水を使うことは憚られ、私が躊躇っていると、少し前に私から離れていたディグレが戻って来た。


「ディグレ、何処へ行っていたの?」

ディグレは私をチラリと見た後、何故かロナルド様の洋服を優しく噛んで引っ張った。


「ん?どうした?」


「何か……ロナルド様に用がある様です」

ディグレは相変わらずロナルド様の洋服を引っ張っている。どうも何処かへ連れて行きたい様だ。


「ちょっと行ってくる」

ロナルド様はディグレの行動に戸惑いながらも、ディグレと一緒に歩き始めた。ディグレはロナルド様の洋服をようやく離すと、先導するように前を歩き始めた。


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