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第53話

「子ども……?」


「はい。サラはランドルフに子どもを託しました。ランドルフは随分と嫌がったみたいですが、子どもを守る為にと説得された様です。そこで私、思い出した事があるんです。サラは森を出るランドルフに自分の力を込めた水晶をお守りとして渡した……と日記に書いてあったんです」

私とロナルド様は焚き火を挟んで向かい合う。焚き火に照らされたロナルド様の顔がゆらゆらと揺れて見える。その顔は何かを考えている様だ。


「じゃあ……もしかすると聖なる水晶は……」


「可能性の話です。その老人が、サラの子どもだった……とか?」


「ランドルフ本人って事はない?」


「日記によると、ランドルフは言葉を話せなかった様です。原因については書いてありませんでしたが、教会にそれを持って行ったとしても、説明出来なかったでしょう。それにランドルフが老人になる頃なら、まだローラが聖女として君臨していたのではないでしょうか?」


「!!確か、ローラの次の聖女が選ばれたのは随分と後だった様な……。クソッ!ちゃんと家庭教師の話を聞いておけば良かった」


「単なる可能性ですが……サラの水晶が聖なる水晶だったとして、魔女と濡れ衣を着せられたサラの水晶があんな風に魔の力に反応するでしょうか?あれがサラの水晶であるなら、水晶自体にもサラの力が込められている筈です。彼女は私と同じ様に聖なる力を物質に変える力を持っていたので。それに彼女はあくまでランドルフと彼女の子どもを守る為に水晶に力を込めました。それを考えると水晶はやはり力を溜める事、引き出すことに特化した物だったんじゃないかと思うんですが……」

上手く言葉に出来ないが、サラの水晶には彼女の愛が込もっていた筈だ。サラの力は多分私より強い。その彼女の作った水晶なら魔の力など簡単に跳ね除けそうな気がする。


「お前の言いたいことは何となく分かるよ。あの時の聖なる水晶が偽物だったなんて……誰も考えなかった事だ。だけどそれを証明する手段がないな……。サラの日記と俺達の推測だけではお前の汚名を雪ぐ事は不可能だ。だが、これだけは覚えていて欲しい。俺はお前が魔女だとは当然思っていない。もちろん……サラの事も。だけど皮肉なものだな。実はローラには実子がいなかったとされている。結局王太子に選ばれなかった王子の子どもがその後王になった。……サラには子が居たというのに」


「水晶については、今更どうしようもないと私も理解しています。それに……サラは自分の子を王に、など考えた事も無かったでしょう。彼女は聖女にも興味はなかった。ただ自分の力を使って周りの人達を幸せにしたかった……それだけです」

日記を読んで何となくサラという女性を身近に感じている自分が居た。

そう言った私の顔をロナルド様はじっと見つめる。顔が熱いのは焚き火のせいだ。……そのはずだ。


「お前もそうだろう?聖女になりたかった訳じゃなく、自分の力を役立てたかったんだろう?」


「それが私に出来る唯一の事だと思っていましたから」


「俺達で魔王を封印しよう。お前の力で封印出来れば、お前が真の聖女だったと証明出来る」

そんなに上手く行くだろうか?私は少し不安になる。


「私に出来るでしょうか?」


「出来るさ。真の聖女はお前だ」


「……でも……」


「おい、おい。弱気なお前なんて、お前らしくないな。学園ではあのアナベルに食って掛かっていただろう?」


「人聞きの悪い事言わないで下さい。自分から絡みに行った事などありませんよ。売られた喧嘩を……ちょっと買っただけです」


「あの女に意見してた奴なんて他に学園で見たことなかったぞ?お前ならやれるさ。魔王を封印すれば、国民は喜ぶ、俺は国王になれる、お前は兄さんと結婚出来る。一石二鳥どころか三鳥だ。だろ?」

戯けた様に言うロナルド様の言葉に私の胸がざわついた。ニヤリと笑うロナルド様とは正反対に、私の心は何故か暗く沈む。……いや、その理由に心当たりはある。しかし、それを口にする資格は今の私にはない。

私はそれを上手く隠す為にわざとらしく、


「その通りですね!!うん!何だがやれる気がしてきました。ご褒美が待っていると思うとやる気も二倍です」

と明るく声を上げる。


「だろ?さぁ、もう休め。俺はお前に癒してもらったが、俺にはそんな力はない。人の背にしがみついているのも意外と疲れるもんだろ?」

私は頷いて、側に敷かれた厚めの敷物に体を横たえた。ロナルド様に背中を向ける。自分の心に嘘をついた私の顔を誰にも見られない様に。































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