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第55話  Sideウィリアム

〈ウィリアム視点〉


「アナベル、封印の場所までは皆に結界を張ってくれないか?」

歩き始めて直ぐに魔物の大群に襲われた。

黒い羽に鋭いクチバシ。まるでカラスの様だが、その体は三倍程も大きい。その魔物が数十匹も襲って来た。急に空が暗くなった様に感じたかと思うと、一斉に空から舞い降りる。

僕と副隊長。もう一人の騎士が剣で応戦するが、空からの攻撃を剣で防ぐのが精一杯だ。防ぎきれなかった魔物が僕に目掛けて三匹が真っ直ぐに急降下して来る。


(殺られる!!!)

そう思った瞬間、一人の聖騎士が僕の頭上に素早く結界を張った。三匹の魔物は結界に弾かれ、副隊長の剣で断末魔を上げた。

そのお陰で僕は命拾いしたが、結界を張ってくれた聖騎士がその隙を突いて襲われる。彼女は頭から血を流していた。


何とか魔物を撃退すると、もう一人の聖騎士が怪我を癒していく。皆、ボロボロだった。


それを岩場に隠れて見ているだけのアナベル。

思わず怒鳴ろうかと思ったが、直ぐに無駄だと気付く。ちゃっかり自分には結界を張っているようで、その様子が何だが滑稽だった。


「ずっと張り続けろと?」

自分には張りっぱなしじゃないか。


「ここからならあと少しで目的地に辿り着ける。それぐらいなら君にも出来るだろう?」

『君にも』と言ってから、ふとクラリス嬢の事が頭に浮かぶ。彼女は今頃どうしているのだろう。

魔女の森に追放されたクラリス嬢。

魔女の森がどんな場所であるのか、僕には皆目見当もつかないが、せめて生きていてくれれば良い……と思う。

もしこの場に居るのがアナベルではなくクラリスだったら……なんて想像をしそうになって止めた。虚しいだけだ。


「では、皆を此処で置いていきましょう。私と殿下にだけ結界を張りますわ」


「君はこの期に及んでまだそんな事を言っているのか?!」


「何が問題なのです?結界を張れば私と殿下は魔物に襲われる事なく、目的の場所まで辿り着けます。何ならこの山に着いて最初からそうすれば良かったんですわ」


「君……封印の方法はちゃんと聞いたんだろ?」

僕は呆れる様に言った。


「ええ。大司教から教えて頂きました」


「なら封印の時、君の殆どの力を剣に宿さなければならない事も知っているよね?」


「分かっておりますわ」


「僕もその封印に全力を注ぐ。正直に言えば二人とも無防備だ。その時、誰が僕等の背中を守ってくれるんだい?」

さっきまで岩場の影で青い顔をして震えていた彼女は、僕のその言葉にますます青ざめていた。

結局、彼女は渋々僕等六人に結界を張りながら目的地を目指す選択をした。



「まだ歩くのですか?」

一時間も歩くと彼女は肩で息をし始めた。


「僕も此処に来るのは初めてだからはっきりとした事は言えないが、もう二、三時間程じゃないかな」


「二、三時間?!もう無理です!!一歩も歩けません!」

彼女はそう叫ぶと、その場に座り込んだ。

彼女には聖なる力が備わっている。その力も中々のものだろう。聖女試験で聖女に選ばれるぐらいなのだから。

だけど彼女には致命的な欠点があった。

彼女には体力がない。聖騎士も既にボロボロで彼女を癒すことも難しい。

聖なる力を使うのに、体力を使う事は知っていたが、まさか一時間歩いたぐらいで、彼女の力が不安定になるなんて思ってもみなかった。


「アナベル様、私の背にお乗りください」

副隊長が座り込んだ彼女に背を向けてしゃがむ。


「無礼な!お前などが私に触れるなんて事、許される訳がないでしょう?!私は次期王妃なのよ!」

疲れて気が立っているとはいえ、酷い。彼女の言葉に副隊長も拳を震わせたが、何も言わず静かに立ち上がった。

周りの皆も呆れを通り越し、彼女を憐れむ様な目で見ている。もちろん僕もだ。だが、そんな事は言っていられない。


「アナベル、ならば僕が君を背負うよ。それなら良いだろう?」

僕は彼女に背を向ける。


「ウィリアム殿下であれば」

そう言いながら彼女はいそいそと僕の背に乗った。

僕達はまた目的地に向かって歩き始める。きっと皆の心の中に僕と同じ思いが込み上げているはずだ。

『彼女に魔王の封印ができるのだろうか?』と。

それから二時間程歩いた頃、大きな洞窟の前に辿り着いた。

流石に僕も疲れてしまった。洞窟の前で彼女を背から降ろす。


「此処からは平らな道だ。アナベル、もう歩けるかい?」


「この洞窟は?」


「この洞窟の奥に魔王が封印されている場所がある。いよいよだ」

もう昼を過ぎた。日が落ちる前に目的の場所へ辿り着かなければ、今以上の魔物が襲ってくるだろう。洞窟は今は不気味な程静かだが、魔物が巣くっているに違いない。


「さぁ、行こう」


「少し休ませて下さい。疲れました」

歩いてもいないのに?そう思うが実は僕もクタクタだ。少しでも先を急がなければならない事は百も承知だが、僕達は少し休憩を取ることにした。


「アナベル、水だよ」

僕の差し出した水筒を手に取ると、彼女は少し飲んで俯いた。

僕は気付いていた。水筒を受け取る彼女の手が震えていた事を。

彼女は恐れているのだ。




























































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