「そう言えば……。他の聖女候補の方々は魔物を倒すのに、聖なる力を纏わせた剣を使うらしいです」
「らしいな。昔王太后に聞いたことがあった。だから驚いたんだよ、お前のその白い弓矢」
「私は普通だと思っていたんですけど、凄く珍しいって」
「めちゃくちゃ綺麗だけどな、あれ。って事は……その封印に必要な剣に力を纏わせるのか?」
サラッと褒められて、少し動揺する。
「そ、そうかもしれませんね。で、その封印の剣というのは何処に?」
「その洞窟の何処だ。その剣を扱えるのは王の血を引く者だけだと言われている」
「では……王族にも不思議な力が?」
「そうらしい。初代聖女は一人で魔王の封印を成しとげたんだ。初代聖女がその当時の王に見初められて王妃になった……ってのは有名な話だから知ってるな?」
「はい、もちろんです」
「次の国王になったのは、前王妃の子どもではなく、初代聖女の息子だ。その意味は分かるな?」
「初代聖女の血を引く者が王になった……という事ですね」
「そうだ。それがその剣を王族が扱える由縁だな。まぁ、だからといって聖なる力を使える訳ではないが。それに聖なる力は女性にしか発現しない。そして……王族には男児しか生まれない」
「王族には男児しか生まれない?」
「そうだ。初代聖女が王妃になってから……生まれる子どもは全て男だ」
私は歴史の授業を思い返す。……確かに。
「じゃあその王族しか扱えない剣に聖なる力を纏わせて……それからどうするんです?」
「さぁ……?その場所に着いたら分かるんじゃないか?」
「分からなかったらどうします?」
「どうすっかなぁ……ちなみに隠された剣の場所も知らん」
「はぁ〜?!」
私に自分の少年時代の洋服を用意してくれたり、野営の準備をしてくれたりと計画性があるのかと思いきや、一転、一番大切な事が何一つ分かっていない。
「無計画過ぎませんか?」
私が呆れた様に言うと、
「居ても立ってもいられなかったんだよ。魔物が出ている領地の貴族は王宮に陳情に来ていた。どうにかしてくれって。なのに兄さんもアナベルも優雅に庭の薔薇を見て回ってるんだぜ?犠牲になったのは馬や牛だけじゃない。人も、家も、畑も、森も……王都に居れば気づきにくいかもしれないが、本当に酷いものだった」
ロナルド様は悔しそうに言った。
「ロナルド様、私に嘘をつきましたね?」
「嘘?そんなものついてない」
「国王になりたいから下剋上する……なんて嘘じゃないですか。国民を……この国を救いたかったんですよね?」
「ど、どっちだって同じだろ?この国を変える事が国民の為になるんだから、俺が国王になるのが一番手っ取り早い。その為には魔王の封印だ……手段と目的が同じだっただけだ」
あぁ……やはり彼は誰よりも優しい人なのだと改めて思う。目に見える優しさが全てではないのだとロナルド様を知るとそう心から思える。
そんな私を見て、
「何ニヤけてるんだよ」
とロナルド様は不満そうに言った。
「別に。……私、下剋上を決めて良かったです。貴方に付いてきて良かった」
もしあのまま聖女になっていたら、あの時の私なら、間違いなくウィリアム様を選んでいただろう。
そして、大勢の討伐隊を従えて、魔王の封印に向かう私には、ロナルド様の思いの強さを知る事も、ディグレとの出会いも無かったのだ。
「な、何でそれでニヤけてるんだよ。本当なら……こんな苦労をせずにお前なら魔王の封印が出来ていたはずなのに」
「私、魔女になって良かったです!私今までが見えていなかったもの、見なかったものが見えてきました」
「魔女で良かった……なんて変な奴」
ロナルド様が怪訝な顔をする。
でも私は今、感謝していた……この結果に。
私は大切なものを見つけたのだ。